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乳歯がなかなか抜けない原因は?抜けない場合の対応は?

乳歯は20本あり、標準で6歳前後から抜けはじめて永久歯へと生えかわっていきます。通常は13歳頃までに最後の乳歯が永久歯へと生えかわり、乳歯の後ろに生えてくる第一大臼歯(6歳臼歯:6)、第二大臼歯(12歳臼歯:7)を含め、智歯(親知らず:8)を除いた28本の永久歯列が完成します。

しかし、中には乳歯がスムースに抜けず、一部の乳歯が残ったままだったり、グラグラと揺れてくる様子がなかったりするケースがあります。

今回は乳歯が抜けない複数の原因と、それぞれの場合の対応について解説します。

■乳歯が抜けるメカニズムとは

乳歯から永久歯への生えかわりの時期が近づくと、「破骨細胞」や「破歯細胞」の働きによって乳歯の歯根(骨の中にあって外側からは見えない歯の根の部分)が徐々に溶かされるように短くなっていきます。

そうすると、歯を支える部分が少なくなるためにグラグラと揺れ始め、やがて脱落します。イメージとしては、近づいてきた永久歯が長かった乳歯の歯根を食べるように溶かして短くしながら上がってくるような感じでしょうか。

乳歯の脱落とほぼ同時に永久歯が顔を出して生えかわりが完了する仕組みです。

■乳歯が抜けない原因

①生えかわりが標準よりも遅い

お子さんの成長には個人差があります。7歳前後になっても乳歯から永久歯への生えかわりが起きないお子さんも多く、大多数は心配不要です。特に1~3月の早生まれのお子さんの保護者の方は、同じ学年の他のお子さんと比較すると遅く感じてしまいがちです。

一生涯使う永久歯は、遅く生えてくれた方がラッキーだと考えて気長に待ってください。

また、前歯の乳歯から永久歯への生えかわりがまだであっても、乳歯の奥歯のさらに奥に追加で生えてくる6歳臼歯(第一大臼歯:6)が先行して生えているお子さんもいます。

年齢が6歳前後なら生えかわりこそ起きていませんが、永久歯が生え始めた時期としては標準よりも遅くないと言えます。永久歯の生える標準の時期(歯種によっては生えかわりの時期)はこちらをご覧ください。

永久歯の生える時期にはかなり幅があり、標準より遅くてもほとんどの場合は心配不要ですが、左右の同じ歯で極端に差がある場合には精査が必要です。

また、今まで幼稚園や保育園、小学校の歯科健診でも虫歯(むし歯)の指摘を受けないことなどから一度も歯科受診の経験がないお子さんは、受診して上前歯部分の余分な歯(過剰歯)や永久歯の先天性欠如(一部の永久歯がない。下記)について必ずX線診査を受けておきましょう。

過剰歯についてはこちらをご一読ください。

②乳歯が抜けないうちに永久歯が生える

乳歯から永久歯への生えかわりの際は、乳歯がだんだん揺れてきて自然に抜けてくれると多くの方が考えていると思います。

しかし、現代人では乳歯が抜けないうちに永久歯が生えてしまうことあります。特に顎のスペースが狭く、歯ならびに余裕がないお子さんにはそれがよく起こります。

小児歯科の診療で最もよく見るのは下の前歯の乳歯が抜けないうちに内側(舌側)から永久歯が生えてしまうケースです。(写真)

この場合、乳歯には永久歯による歯根吸収(イメージとしては永久歯が乳歯の根を溶かしながら骨の中から上がってくる) が起きず、乳歯の根が長いまま残ってしまうことがあります。そうなると、乳歯はグラグラと揺れてきません。

揺れが少ない場合にはこのまま放置しても乳歯が自然に抜けることは期待できないため、歯科医院で乳歯を抜く必要があります。

最初の生えかわりなのに抜歯が必要となるとご不安もあるかもしれませんが、 たいへんよくあることですし抜歯自体は局所麻酔をすれば痛みも少なく比較的簡単なことが多いのでご心配は不要です。

ご家庭で抜こうとする保護者の方もいるようですが、薄く長く残った歯根(写真)が折れてしまうことがあるため、必ず歯科医師に抜歯をしてもらいましょう。

下の前歯以外でも上の前歯、乳犬歯、乳臼歯(奥歯)にも乳歯が抜けないうちにその歯の近くに永久歯が生えてしまうことがあり、そうなると抜歯が必要です。

次の写真は乳歯が抜けないうちに永久歯が3歯も生えてしまったケースで、当日に乳歯3本を抜歯しました。それにより問題はほぼ解決し、永久歯は正規の位置に移動しました。

全ての乳歯を歯科医院で抜かなければならないことは稀ですが、現代人は進化あるいは退化との関連で自然に歯が生えかわらないこともあるのです。

③乳歯が外傷(怪我)を受けたり重度虫歯の治療をしたため歯根が短くならないことが原因で自然に抜けない

乳歯の特に前歯では、外傷(怪我)によるダメージによって歯の内部の組織である「歯髄」が活性を失ってしまうことがあります。これに対し、感染根管治療という歯の根の治療を実施した場合でも、実施せず経過観察となった場合でも、乳歯の歯根が溶かされて短くなる機能が失われていることが多いのです。

結果として永久歯は、抜けるべき乳歯を異物として認識するかのように乳歯を避けたルートをたどった結果、乳歯が抜けないのにその近くから生えてきてしまいます。

このようなケースでは、あらかじめX線診査をしておいて適当なタイミングで乳歯を抜歯する方が望ましいですが、永久歯が生えてしまってから来院して「抜歯」となることもよくあります。抜歯の時期が極端に遅れなければ、違う場所に生えた永久歯も正規の位置に移動するので、多くの場合は大きな影響はありません。

④永久歯が存在しない

永久歯のうち上顎側切歯(2)や上下左右の第二小臼歯(5)には先天的に永久歯が存在しない「先天性欠如」が珍しくありません。

乳歯がなかなか抜けずに永久歯の先天性欠如が疑われる場合には、X線診査をします。小児歯科専門医等では上顎側切歯(2)を含む上の前歯については4歳頃までにX線診査をするので、その際にわかります。

下のX線写真は左下の第二小臼歯(5)の先天性欠如の例です。右下(向かって左側)の青矢印のところ、第二乳臼歯(E)の下に第二小臼歯(5)がスタンバイしていますが、左下の赤矢印のところには永久歯(第二小臼歯:5)が存在しません。

また、乳歯の前歯が癒合歯(※癒合歯についてはこちらをご覧ください。)だった場合には高い確率で永久歯の先天性欠如が起こります。

乳歯が癒合歯であるのに対し、その下の永久歯は癒合歯でなく標準の数(2歯)があるか、1歯少ない(1歯の先天性欠如)というパターンが多く、いずれも乳歯(癒合歯)から永久歯への生えかわりはスムースに進行しません。

この乳歯の癒合歯の存在やその後の永久歯の数の問題も、広い意味で「乳歯がなかなか抜けない」原因と言えます。歯科医院で経過観察し、必要があれば最適なタイミングでの癒合歯の抜歯をおこないます。

癒合歯やその生えかわりについては、こちらの「癒合歯の将来」「癒合歯と歯ならび」をご参考ください。

先述した乳歯の癒合歯やその後の永久歯の先天性欠如は前歯の話ですが、その前に記した奥歯(主に小臼歯:5または4)の永久歯が存在しない例では、乳歯(乳臼歯:EまたはD)は多くの場合にはある程度長期間脱落しないで歯として機能します。そのため、できるだけ大切に管理をしていきます。

具体的には、なるべく虫歯(むし歯)にしないようにシーラント等予防処置を受け、もしも虫歯(むし歯)になったら早期に的確な治療が必要です。しかし、現実には乳歯の虫歯(むし歯)が進行してから初めてX線撮影をした結果、永久歯の先天性欠如が判明するというケースもあります。

虫歯(むし歯)を免れても乳歯は構造上、一生涯使うようにはできていないので、いずれは限界がきます。その前に歯科医師とよく相談して対策を考えておくことが大切です。

永久歯の先天性欠如については、お子さんの主に歯ならびやかみ合わせの状況によって異なりますが、一般的に下記のような対応に分かれます。

(1)治療や処置が特に必要ないケース

下の前歯の1歯の先天性欠如であれば、本来は合計4歯ある永久歯の中切歯、側切歯が合計3歯になりますが、歯ならび・かみ合わせによっては特に歯科的な対応が必要ない場合もあります。歯科医師とよく相談しながら経過観察を受けていきましょう。

(2)矯正治療が望ましいケース

永久歯の先天欠如の部位や、全体の歯ならび・かみ合わせの状態によっては矯正治療による対応が最適なことがあります。

顎のスペースが狭く歯列にでこぼこがある(叢生:そうせいと呼ばれます)場合には、永久歯の小臼歯を抜歯して矯正治療をするのが一般的ですが、永久歯の小臼歯に先天欠如がある場合には残存している乳歯を抜歯することによってそれに代えることがあります。

最終的には、残存していた乳歯があったスペースはその乳歯の抜歯を伴う矯正治療によって閉鎖し、全体の歯の数は少なくなりますがきれいな歯ならび・かみ合わせを獲得することができます。

矯正専門医で専門的かつ計画的な診断を受け、治療計画のもとで矯正治療を進めていくことになります。

(3)将来の補綴(ほてつ=ブリッジやインプラント)治療での対応となるケース

歯ならびやかみ合わせに問題がない場合には、矯正治療ではなく成人後にブリッジやインプラントをおこなって先天性欠如の部分を補うという対応の方が合理的な場合があります。

例えば、永久歯の小臼歯に先天性欠如がある場合、生えかわらない乳歯をできるだけ長期間残しておきます。そして、いよいよ残すことがむずかしくなった時点で概ね成人に達しているのであれば、乳歯のあったスペースは閉鎖せずにブリッジやインプラントで補う治療を検討します。また、成人年齢より前に生えかわらない乳歯が抜歯となったときは、取り外し式の入れ歯のような装置(可撤式保隙装置:かてつしきほげきそうち)を作製して成長期はこれを使用し、成人後に補綴することになります。

なお、非常に稀ですが合計8歯あるはずの小臼歯をはじめとした多数の永久歯が先天性欠如であるケースがあります。この場合は小児歯科、矯正歯科、補綴科、口腔外科等いくつかの専門分野を横断した総合的な治療計画が必要になります。なお、多数歯の先天性欠如については矯正治療に保険が適用されることもあります。

⑤何らかの原因で永久歯が埋伏(まいふく=骨の中に潜ったまま生えてこない)している

乳歯の外傷(怪我)の影響で永久歯の歯胚(永久歯の芽)が損傷したり、感染を受けたりした結果、永久歯が変形するなど骨の中に潜ったまま生えてこない「埋伏」という状態になることがあります。また、上顎の犬歯(3)などでは、乳歯の外傷とは関係なく永久歯の位置や方向が正常でないために埋伏することがあります。これらの場合も「乳歯がなかなか抜けない」ということが起こります。

対応としては、可能であれば歯肉を切開する「開窓(かいそう)」という方法を実施します。その後、多くの場合には骨の中にある永久歯に器具を装着して口の中の装置から引っ張る「牽引」によって埋伏している永久歯を引き出し、矯正治療で位置を整えます。

開窓や牽引が不可能な場合は、上記④の(2)(3)同様の対応となる一方、埋伏した永久歯を摘出するかどうかも検討します。

埋伏した歯は「嚢胞化」という望ましくない変化や、予想外の方向に骨の中を大きく移動することがあり、放置せずに摘出した方が良いこともあります。いずれにしても、矯正歯科や口腔外科での定期的な診査が必要です。

下の写真とX線は「乳歯がなかなか抜けない原因」のテーマからは少し外れますが、乳歯が抜けたのに永久歯が「埋伏」したために生えてこなかったケースです。

この生えていない永久歯はX線で見ると上下が逆の状態になっています。
もともとは乳歯の重度虫歯(むし歯)から骨の中の永久歯に感染が波及し、永久歯の形や角度に問題が起きてしまいました。
さらに上下逆になった永久歯に再度細菌感染して歯肉が腫れています。

このような永久歯への影響を防ぐためにも乳歯の虫歯(むし歯)を放置せずに早めに治療することが大切です。

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※症例写真はすべて、患者さん・保護者の承諾を得て掲載しております

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