子どもの歯が痛い

虫歯(むし歯)は痛いものというイメージがありますが、意外かもしれませんが乳歯の場合は自覚症状が少なく、痛みを感じるのは相当進行した状態になってからです。
「お子さんが歯の痛みを訴える」と小児歯科を受診するケースの大半は虫歯の痛みではありません。
口の中の特定の部分が痛い場合に、最も多いのは口内炎です。
低年齢では表現力が乏しいこともあって保護者は歯の痛みと誤解しますが、痛みの出ている付近の歯肉に口内炎が見つかることがよくあります。

保護者の目から見て、虫歯(むし歯)で歯に大きな穴があいている場合には虫歯(むし歯)の痛みの可能性がありますが、一見してきれいな口の中のお子さんでは、歯の間に小さな虫歯(むし歯)が潜んでいたり歯の溝に黒い部分があって軽度の虫歯(むし歯)であったとしても、まだその段階では痛みは出ません。
虫歯(むし歯)が進行して歯の内部の歯髄という組織に達する深さになると「歯髄炎」という状態になります。
成人ではこの段階で水にしみたり痛みが出たりしますが、小児でははっきりした症状が出ないのが普通です。

さらに進行すると歯根の先まで細菌感染が及び、歯髄が活性を失って歯の中が膿んできます。
「急性または慢性の化膿性根尖性歯周炎」という状態です。
乳歯では多くの場合、この段階に至って初めて痛みが出てきます。

特定の歯1本に強い痛みがある、その歯で噛んだり触れるだけでも痛い、温かい飲み物を口に含むと痛い、身体が暖まると痛みが増す、その歯の近くの歯肉が腫れるなどの症状が出て、痛みの強弱に波はあるものの時には食事もできず夜も眠れなかったり、痛くて泣いてしまうほどになります。
歯は硬い組織でできているので、歯の内部に膿が溜まって圧力が高まると膿の出口がないので強い痛みが生じます。

注目すべきは一度も治療を受けていない虫歯(むし歯)よりも、一度治療したはずの歯がこの状況に陥ることの方が多いのです。
歯髄の近くまで進んだ虫歯(むし歯)を削って治療していく際に、既に歯髄に感染が及んでいたり、ギリギリの線で歯髄を残して充填処置をしたが結果として残念ながら感染して数か月後に痛みが出てくることは、良質な歯科医療がなされていてもときどきあります。
治療の際にラバーダムと「う蝕検知液」を使用すれば成功率は高まりますが100%ではありません。
できるだけ歯髄には手をつけずに充填処置で済むに越したことはない、という最近の歯科医療の潮流も背景にあります。

そして、現実には必ずしも良質とは言えない歯科医療の結果として1)虫歯(むし歯)部分が取りきれなかったり、2)充填物の封鎖性が不完全で隙間から細菌が侵入した結果、膿んでしまうことが多々あります。

写真は不完全なCR充填に伴う上記の1)や2)によって膿んでしまったと思われる歯です。

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こうした歯は触っただけでも痛みがある反面、歯髄だった部分は活性を失っていて知覚がないので削ることでの痛みはありません。

歯髄が健康であれば歯に穴をあけると出血してきますし、局所麻酔なしで歯髄の近くまで削ると激痛がありますが、膿んでしまった歯は写真のように内部が黒ずんでいたり、膿があふれ出てきたりして局所麻酔は不要です。

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このように歯に穴をあけて膿の出口を作り消毒薬を浸した綿を入れ、仮の蓋をせずに開けておく処置を「開放」と言います。
原因となった歯が歯科医師により特定されて開放処置が受けられれば膿が出て圧力が抜けるので痛みは軽減し、多くのケースではその日から安眠が得られます。
通常は抗生剤を服用していただき、ケースによっては歯肉の腫れを切開します。
その後は「感染根管治療」という治療法に移行します。

受診が遅れたり、受診しても原因の歯がなかなか特定できなかったりして開放処置が遅れると、頬や顔までが腫れてしまう「蜂窩織炎」という状況になってしまうことがあります。
炎症が長期にわたると顎の骨の中で育っている永久歯の芽(歯胚)に感染が及ぶことも当然考えられます。

先日も他の歯科医院で治療を嫌がったために顔の半分が腫れてしまい、総合病院の小児科に1週間入院後に当院に紹介されてきたお子さんの治療をしました。
歯科のない病院では歯科医師による開放処置が不可能なこともあり、抗生剤の点滴で炎症が治まるのに日数がかかることもあるようです。

人間の感じる痛みの中でも上位にランクされるという、強い苦痛を伴う根尖性歯周炎の痛みからお子さんを早く解放してあげるには、信頼できる歯科医師による一日でも早い開放処置と投薬が必要なのです。

園や学校の歯科健診をクリアするには

保育園、幼稚園、学校等の歯科健診で虫歯(むし歯)を指摘されたので治療を受けたが、再度「虫歯(むし歯)があります」という受診のすすめをもらってしまう、という悩みをお持ちの保護者の方も少なくないように思います。

園や学校の集団歯科健診では、歯科医院における精査に比べて診査の精度ははるかに低く正確な診断の場ではないこと、一方でこうした集団健診にも意味はあることは一つ前の記事をはじめ過去にもこのブログに記してきました。

私は小学校の学校歯科医と保育園の歯科園医をしており、日本学校歯科医会にも所属していて集団健診の方法や基準については研修会で何度も学んできました。
これらの知識や経験から、「虫歯(むし歯)治療済み」と「治療の形跡はあっても虫歯(むし歯)と判定せざるを得ない」ケースを判別しています。
私を含め、それぞれの園や学校の健診を担当する歯科医師は前述した研修を必ず受けていることもあって、判断の基準にそれほど大きなばらつきはないはずです。

写真のケースでは乳歯の奥歯の間にCR修復という治療がしてあるようですが、どなたがご覧になっても黒い部分がわかり、明らかに問題があるでしょう。
生えかわりの時期が全く異なる2歯に、橋渡しのようにまたがって充填されてしまってもいます。
歯科治療を嫌がらず、泣いたり動いたりもしないお子さんの歯です。

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歯科学的にはありえない処置内容ですが、もしも最大限善意に解釈するならば、これは何らかの応急的な処置だったのかもしれませんし、歯科医院の診療設備が故障してしまっていた等の事情があったのかもしれません。
しかし、このような状態を園や学校の健診で「虫歯(むし歯)治療済み」と判定することはできないのです。
私の歯科医院でCR修復をやり直した結果が下の写真です。

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これなら、園や学校でどの歯科医師が健診をしても「虫歯(むし歯)治療済み」と判定するだろうことは、容易におわかりいただけるのではないでしょうか。

上記は極端な例ですが、適切な歯科医療がされている場合は、保護者の方々が見ても黒い部分や段差がなくて、形にも違和感がないはずです。

最近では私のような小児歯科専門医で小児歯科に特化した歯科医院は少なくなり、低年齢児を受け入れる歯科医院も増えてきました。
自宅から近くて託児や駐車場、夜間や日曜の診療など、診療以外の部分での利便性が髙い歯科医院は通院しやすいでしょう。
しかし、「小児歯科」と看板に掲げてあってもその診療内容は実に様々です。

私が歯科園医をしている保育園の園児の中には、歯髄に達する「C3」と判定される深い虫歯(むし歯)があるので「受診のすすめ」にその旨記載しても、泣かずに治療できる年齢であるのに受診先の歯科医院では治療や処置を全くせずに「経過観察します」という返事が戻ってくるケースさえあります。

ここ数年このような「進行したむし歯(虫歯)に対して何の治療も処置もしない」という歯科医院の対応結果を、3歳児健診や保育園健診でもたびたび目にするようになりました。
この現象は、近年横行している歯科医院開業戦略のようなことと関係があるのですが、ここでは詳述は控えます。
また、処置をしないのとは逆に積極的に診療した形跡はあっても、深い森の中に迷い込んで出口が見いだせなかったかのような症例が私の診療所にたどり着くこともあります。
十数回も通院してきたのに治療が済んだはずの歯の充填物が脱落したり、化膿して歯肉が腫れてきたりという状態が口の中の随所に見られるようなお子さんです。
上の写真で再治療結果をご覧いただいたお子さんもその中のお一人ですが、同様の例は急増しています。

乳歯の虫歯(むし歯)を放置したり、治療結果が思わしくなく化膿してしまうと、永久歯やその後のお子さんの成長に様々な影響を及ぼしてしまいます。
(これについては稿を改めたいと思います。)

次のような状況にあるとお感じになる保護者の方は、ぜひ一度小児歯科専門医全国小児歯科開業医会の会員診療所にご相談ください。(リストにある歯科医師でも診療方針はそれぞれ違いますが、良質な小児歯科診療に出会うことのできる確率は高いです。)

・「小児歯科」と書いてある歯科医院を受診したが、お子さんが低年齢であったり診療に協力しないことから治療が進まない。
・歯科医院に慣れるためのトレーニングや応急的な処置が続き、長期間通院しても治療が開始されない。
・お子さんが泣いたり嫌がったりすると治療が中止され、それが繰り返されている。
・あと何回通院すれば治療が終了するのかがはっきりしない。
・保育園・幼稚園や学校の歯科健診で毎回のようにむし歯と判定され、通院しても再び指摘される。
・一度治療した歯の修復物が脱落を繰り返す。
・治療が終わった歯の歯肉が腫れて膿を持っている。
・治療済みの歯を見ると色や形に問題があるように思える。
・診査にかける時間が短く、むし歯や過剰歯(余分な歯)の検出のためのX線撮影をしたことがない。

もちろん、歯科医師の考え方に沿ってお子さんの発達に応じたペースで診療を進めていくことで良いのです。
年齢やお子さんの様子に応じて治療開始時期や内容を相談していくということも大切です。
その一方、乳歯のむし歯は進行が極めて早く、かなり進行しても痛みが出ないという特徴があるため、早期発見、早期治療(ただし的確で精緻な)が重要であることも忘れてはなりません。

小児歯科の専門医の資格を有していなくても、また、簡単に入会できる小児歯科学会の会員ですらなくても「小児歯科」と標榜(看板に掲げること)することは自由なので「小児歯科」と書いてある歯科医院は数多くありますが、日本小児歯科学会の認定専門医で開業している歯科医師少なく、たとえば平塚市には私を含めて3名しかおりません。

お困りの場合には小児歯科専門医にご相談いただければ必ずお役に立てることと思います。

以前の当ブログ「歯科健診をクリアするには」にもだいたい同じようなことを書いておりますが、このところ気になるケースが増加したこともあって多少切り口を変えて書いてみました。

歯科衛生士募集中です

小児歯科専門エンゼル歯科では2018年11月現在歯科衛生士を1名募集しております。

興味ある方は動画をご覧の上、You Tube動画説明欄もお目通し下さい。

勤務条件についてはハローワークのサイトに掲載してあります。
求人番号14060-6968681です。
ご応募お待ちしております。

学校歯科健診の判定と現実の虫歯(むし歯)とのギャップ

学校歯科健診、幼稚園や保育園の歯科健診、3歳児健診などの幼児健診に代表される集団健診は、あくまでもスクリーニングであって正確な診断の場ではないということや、集団健診の意味と限界については前記事にも書きました。
したがって集団歯科健診の結果に一喜一憂することはないわけです。
歯科医院での精度の高い診査を定期的に実施し、良質な予防処置や治療を受けていれば学校歯科健診等で虫歯(むし歯)に関しては指摘される可能性は低くなります。

一方、集団健診で指摘されなかったからと言って安心してしまうと、検出しきれなかった虫歯(むし歯)が知らないうちに進行してしまう事態となります。

私は先日も学校歯科医の研修を受けたばかりですが、その研修の場でも講師が写真を見せて、たとえば虫歯(むし歯)なのか初期虫歯(むし歯)の疑いCo(シーオー)なのかを受講者が判定しました。
それはそれで、集団健診の精度管理の向上には寄与するでしょう。
しかし、目で見る「視診」が中心で診査環境も良いとは言えない学校歯科健診等の集団健診では全体像はわかりません。

少しシミュレーションをしてみます。
下の写真の3歯(乳歯2歯と永久歯1歯)を学校歯科健診であればどのように判定されるでしょうか。

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赤い矢印の部分はCR(コンポジットレジン)修復がしてありますが、保護者の方が見ても問題がありそうとお感じになるでしょう。
私が学校歯科医として診査したなら、これは修復完了(健診に用いる記号では〇)とはせず、再治療が必要な虫歯(むし歯)としてCと判定するでしょう。
しかし残りの2歯は、溝に着色はあるものの大きな虫歯(むし歯)とは判定できず、学校健診レベルでは初期の虫歯(むし歯)が疑われるとしてCo(シーオー)と判定するかもしれません。
さて、このケースを実際に歯科医院の設備のもとで診査をし、治療してみました。
学校健診ではX線も使えず、歯を乾燥させるエアーもないので歯と歯の間の虫歯(むし歯)は検出困難です。
このケースでは咬翼法(バイトウイング法)X線を撮影すると、それぞれの歯の間に深さのある虫歯(むし歯)がみつかりました。
ラバーダム防湿をすることでも、歯の間の虫歯(むし歯)が見えてきます。

局所麻酔をしラバーダムを装着して、まずは、赤い矢印のCR修復を除去してみます。
ご覧のとおりです。

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う蝕検知液を使用しながら、修復物の下からあらわれた虫歯(むし歯)を慎重に削っていきます。
また、初期虫歯(むし歯)程度と思われた残りの2歯の溝の虫歯(むし歯)もかなり深く、学校健診レベルの診査結果とは大きく異なる状況がわかってきます。
結局、感染歯質(虫歯=むし歯 に侵された部分)を全て除去すると下の写真の状態になりました。

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写真にはありませんが、マトリックスとウエッジという器具を用いて、歯の間の形態を作って元のような自然な丸みを再現していきます。

CRによる歯冠修復(虫歯=むし歯の充填治療)が90%程度完成した状態が下の写真です。
あとは仕上げの研磨と細部の微修正をし、かみ合わせの調整をすれば終了です。
唯一虫歯(むし歯)を免れた溝にはシーラント処置をします。(写真右上端のピンク色の部分。)

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近年では、臼歯部(奥歯)の歯の間の治療に際し、できるだけ咬合面(歯のかみ合わせる面)から削らずに隣接面(歯の隣り合う部分)からアプローチすることも提唱されていますし、MI(ミニマルインターベンション)と言って削る範囲を必要最小限とする考え方も主流になりつつありますが、このケースでは適応となりませんでした。
しかし、ラバーダム防湿によって唾液に含まれる細菌や水分をシャットアウトして治療すれば耐久性は格段に向上します。

もちろん、治療するばかりでなく食生活やブラッシング・フロッシング、今後の定期診査等についてもアドバイスをしていきます。
このケースで今後長期的に良好な経過を得るのに最も大切なのは、保護者の方がこのお子さんに毎日フロスをしてあげることだと思います。

私自身も学校歯科医と保育園の歯科園医を長年やっていますし、平塚市の1歳6か月健診、3歳児健診、2歳児歯科健診も年に数回担当しています。
集団歯科健診にも大切な意味があること、しかし歯科医院での診査とは大きなギャップがあるということの双方を常に意識しながら健診や診療をしています。
保護者の方々にも、両者の違いをご理解いただければ幸いです。

集団歯科健診と小児歯科での個別診査の違い

「保育園や学校の歯科健診ではむし歯なしと言われたのに、歯科医院ではむし歯があると言われた。」

よくある話です。では、なぜこのような矛盾が起こるのでしょうか。

集団健診はあくまでも精査を必要とする人を見つけ出すという目的でおこなわれるものです。これを「スクリーニング」と言います。
1歳6か月児健診、3歳児健診、保育園・幼稚園の健診、学校健診などは歯科に限らず全てこのスクリーニングに該当します。
集団健診は正確な診断を得る場ではなく、医療機関に行って精密な検査や正確な診断をしてもらった方が良いと思われる人をふるい分けるシステムです。

たとえば、聴診器ひとつで胃潰瘍が発見できないということは、どなたにもご理解いただきやすいと思います。
その一方、熟練した医師が受診者の胸に聴診器を当てるだけで、心音や呼吸音の異常を聞き分け、病気の存在を示唆することが可能である、ということもわかりやすいと思います。
内科などの場合には、「集団の健康診断で全てがわかるわけではないが、病気の手がかりが見つかったら病院に行って診てもらうべきである。」ということは多くの方々が認識されています。

しかし、歯科の場合はどうでしょう?
暗くて狭い口の中のこととはいえ、むし歯等の病気は集団健診で歯科医師が見れば全て判定できると思っていませんか?
特に3歳児健診などは、保護者の目の前でお子さんの口の中を歯科医師が診査するわけですから、「むし歯はない」と言われれば100%ないと思ってしまうのは無理もないかもしれません。
ここに落とし穴があります。歯と歯の間、中でも奥歯の間は、目で見る診査(視診)ではどんなによく見ても見えない部分があります。
歯の間の見えにくいむし歯を見つけるためには、X線の助けが必要です。
特に咬翼法(バイトウイング法)というテクニックで真横から撮影すると、目での診査では見つけられなかった奥歯の間のむし歯が写りこんできます。

BW集団健診と個別

上のX線写真は、ある幼稚園の健診で「むし歯なし」と判定された後に私の歯科医院にいらしたお子さんのものですが、X線診査(咬翼法)を併用することによって奥歯の間(矢印部分)の歯髄に達する重度のむし歯を含め、全部で10本ものむし歯が見つかってしまいました。
こんなに深いむし歯や多数のむし歯であっても、集団健診をくぐり抜けてしまうこともあるのです。

集団健診での診査環境は、ライトも専用のものではないし、歯を乾燥させるエアーシリンジもないので歯科医院の環境とは大きく違います。
歯科医院では、エアーや器具を使用して診査しますから、保護者の方が「むし歯はないはず」と思っていてもむし歯が見つかることがあります。
X線診査を別にしても、歯科医院での個別健診では、集団健診やご家庭での観察ではわからないこともわかるのです。

特に当院のような小児歯科専門の歯科医院の多くが、毎回の定期診査の際に口の中の正確な記録と咬翼法X線を併用した精度の高い診査方法を採用しています。
(動いてしまうお子さんを短時間でざっと診るような精度の低い診査では、仮に歯科医院でおこなったとしても集団健診レベルとなってしまうかもしれません。)

ところで、集団健診は意味がないのでしょうか?そんなことはありません。前述した聴診器の例のように、集団健診で検出できることも、またたくさんあるのです。
限られた時間と診査環境の中ではありますが、集団健診には異常や病気の徴候を見いだして医療につなげる役割があります。

とはいえ、歯科に関しての正確な診査と結果に応じた予防処置や早期での治療を希望されるなら、学校や保育園・幼稚園の集団歯科健診の結果とは関係なく定期的な個別の診査を歯科医院で受けていくことが必要です。

外傷で歯が抜けてしまったら

小児歯科では歯の外傷(怪我)を診療することがよくあります。
歯の外傷には打撲や破折(歯が割れる、折れる)、嵌入(歯肉や骨の中にめり込んでしまう)等いろいろな種類がありますが、今回は歯が完全に脱落してしまったケース(完全脱臼)への対応法をご紹介します。

完全脱臼の場合、永久歯はもちろんですが、乳歯でも条件によっては元の位置に歯を戻して固定する方法(再植=さいしょく)を試みます。
抜けてしまった歯はできるだけ歯根(口の中にあったときに歯肉の下にあって見えない歯の根の部分)に触らないようにして、歯の保存液(学校や幼稚園、保育園では常備している場合があります)や冷たい牛乳(低脂肪乳や豆乳でなく普通の牛乳)に入れます。

牛乳と保存液

出血等への応急処置をし、歯よりも重大な問題(頭を打っているとか、意識が薄いなど)
がなければ歯科医院に連絡を取って受診しますが、受診までに時間がかかるときは保存液
や牛乳に入れた歯を冷蔵庫等で低温にしておきます。
歯根を包む歯根膜という組織が乾燥してしまうと、再植をしても良好な経過は望めません。

歯科医院では、必要に応じて歯肉等の縫合処置もおこないますが、抜けた歯は元の位置に戻してワイヤーと歯科用の接着剤で固定をおこないます。(私はこの処置の際にもラバーダムを使用します。)
また、抗生剤等の薬剤の投与も実施されます。
写真は乳歯の完全脱臼を再植したケースです。

A脱臼-2

A脱臼-4

固定期間については最短2週間などいろいろな考え方がありますが、当院では多くの場合
1か月から1か月半としています。
固定を除去した後に感染根管治療(歯の内部の治療)をおこない、その後にこの治療の
際に歯の裏側にあけた穴を修復し、経過観察に入る、というのがおおまかな手順と
なります。

A脱臼-6

乳歯については以前は再植をしないというのが一般的だった時代もあり、現在でも否定的
な考え方もありますが、日本外傷歯科学会、日本小児歯科学会、日本歯科医師会は条件に
よっては可能というガイドラインや指針を提示しています。

http://www.ja-dt.org/guidline.html

http://www.jspd.or.jp/contents/main/faq/faq05.html#faq_e0501

https://www.jda.or.jp/park/lose/gaisyou_02.html

低年齢のお子さんの保護者の方は、お子さんの歯が完全脱臼した際には精神的に動揺し、
混乱しているのが普通です。
残念ながら再植できなかった場合でも近い将来に小児用の入れ歯等で補う方法はあります。が、当面再植できれば、保護者の方が動揺や混乱から立ち直って事態を冷静に見ることができるようになるまでの時間を作ることもできます。
その意味からも、私は脱落した歯が乾燥していなくて状態が良ければできるだけ再植を試みるようにしています。

まとめです。
外傷で歯が脱落してしまった場合、まずは受傷部分の止血等の応急処置。次に歯よりも優先する重大な頭部や他の部分の外傷がないかを見きわめたら、乳歯でも永久歯でも歯根部分を触らないようにして牛乳や歯の保存液に歯を浸し、歯科医院へ連絡するというのが望ましい手順です。

小児歯科とラバーダム 続編

小児歯科の医療事故に関連した報道の中で「ラバーダム」に否定的な見解を示した歯科医師がいたことから、日本小児歯科学会コメントを出しました。

この件に関連したもう一つのコメントはこちら

下の写真がラバーダムを装着した状態です。

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ラバーダムについては、このブログの過去記事「小児歯科とラバーダム」もご参照ください。

申し上げるまでもなく、ラバーダムは正しく使用すれば呼吸を抑制することもなく、歯科治療・処置の精度を向上させ、安全性も高めるものです。
(ラテックスアレルギーには注意する必要があり、非ラテックスの製品もあります。)
ラバーダムの使用によって治療成績は明らかに上がります。

しかし、残念ながら日本では日常的に診療に取り入れている歯科医師は少ないようです。
他の歯科医師から「小児の修復物がよく脱落する」「一度感染根管治療(歯の内部の治療)をしても、再び炎症で歯肉が腫れてしまう」ということを相談されることがあります。
ラバーダムを使用すれば修復物は脱落しにくいし、感染根管治療ではむしろ厳しい炎症でも治癒する、ということをお話ししますが、ラバーダムを使用しない歯科医師にはにわかには信じられないようです。

ラバーダムは小児歯科の専売特許のように思われがちですが、昨年2017年に出版された「治療効率がUP!良好な予後につながるラバーダム法」及び10年ほど前に出版された「写真でわかるラバーダム防湿法」の著者の方々は小児歯科医ではなく、保存修復、歯内療法という分野や細菌学に詳しい歯科医師です。

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これらの書籍を読み進めると、私が日々の診療の中で感じている、ラバーダムは唾液に含まれる細菌が、治療している歯に侵入するのをシャットアウトすることや、ハイレベルな防湿により乾燥状態を作り修復物の接着性を格段に向上させることなどが論理的に説明されています。

もちろん、ラバーダムには器具の誤嚥を防いだり、高速回転する切削機械や刺激の強い薬液から口腔粘膜を保護するという役目もありますが、上記した感染対策がラバーダムの主目的であると昨年出版の上記一冊目の著者の一人は書いています。
ラバーダムは簡易的な手術室であるという主旨の記載も二冊目にあり、全く同感です。

成人、小児に限らず、治療部位が見えるようになり、ラバーダムなしで唾液まみれの中で治療をするよりもはるかに効率が良く、予後も良好です。
特に小児の場合にはラバーダムの使用により治療も楽に受けられるようになるので、他の歯科医院では治療に協力できなかったお子さんが当院では動かずに治療ができる理由の一つでもあります。
一部のお子さんはラバーダムが嫌だと保護者に訴えるので、よくご説明し、資料もお渡ししています。

保険診療においてラバーダムには以前にわずかながら診療報酬がついていましたが、今はゼロです。理由はわかりません。
ラバーダムを使っても使わなくても歯科医師が得るお金は同じということです。使用すればコストはかかるので、ラバーダム法は使用する歯科医師の意欲や情熱にのみ支えられているということです。
この視点を一つとっても、使用する歯科医師がまじめに診療に取り組んでいることがおわかりいただけると思います。

下の動画は当院で低年齢児の虫歯(むし歯)治療をラバーダム防湿のもとで実施している様子です。
私は歯科医師になってすぐに師匠からラバーダムテクニックを教わり、身につけることができて本当に良かったと思っています。

歯科衛生士募集

小児歯科専門エンゼル歯科では歯科衛生士募集中です。
興味ある方は動画をご覧の上、You Tube動画説明欄もお目通し下さい。

下記もご一読ください。
ご応募お待ちしております。

https://angel-dc.com/blog/?paged=2

小児歯科専門医の虫歯治療

小児歯科専門医の虫歯治療について短い動画を作成しました。
動画内のタイトルは「小児歯科専門へ行こう」です。

お子さんの重度虫歯でお困りのお母さん、お父さん、保護者の方々にご覧いただきたいと思います。
「歯みがきをがんばりましょう」「甘いものには気をつけましょう」と健診や歯科医院で何回も言われてしまいましたね。お子さんが虫歯になったことがわかってからは、がんばってきましたよね。でも、進行していくこの子の虫歯をなんとかして欲しい。そんな思いに応えられるのが小児歯科の専門性の高い歯科医師です。
下記のサイトから探してみてください。
日本小児歯科学会http://www.jspd.or.jp/
JSPP全国小児歯科開業医会http://www.jspp.net/
これ以外に、スキルがあってもあえて専門医や認定医の資格を取得しない歯科医師や取得準備中の歯科医師を含めても、低年齢児の重度虫歯に積極的な診療をする歯科医師は、全国に約10万人の歯科医師がいる中で2000人に満たないのです。
専門医でも治療方針や治療を開始するタイミングは様々ですので、よく相談してみてください。
数が少ないのでご自宅からは遠いかもしれません。治療は思った以上にたいへんかもしれません。
しかし、乳歯への的確な治療は永久歯への影響を防ぐことにつながり、保護者の方々にとっては子育てに自信を持つきっかけになることもあります。
行動してみましょう。

関連動画
「小児歯科 低年齢児の虫歯(むし歯)治療の実際」

お問い合わせはエンゼル歯科http://angel-dc.com/
サイト内からのメールもご利用ください。

母子保健講演会

私は現在、平塚歯科医師会の理事として幼児の歯科健診や母子保健などの分野を担当しており、歯科医師や関連職種の方々を受講対象とした「母子保健講演会」の企画をする立場にあります。
昨年度(今年の2月)には地域の基幹病院の小児科部長に、先天性心疾患のお子さんの歯科治療について等のお話しをしていただきました。
今年度は11月16日に、歯科医師会未入会の地域の歯科医師にも参加を呼びかけて開催しました。
今回は、前述の病院の小児科でも診療しているアレルギーがご専門の小児科医師に「歯科診療で遭遇するアレルギー疾患 一般的な対策からエピペンの使い方まで」という演題でお話しいただき、歯科医師だけでなく医師や歯科衛生士、行政の母子保健関係スタッフと共に聴講しました。
私たち歯科医師は診療の中で各種の薬剤やラテックス、金属などアレルギーの原因となる物質を数多く扱っています。また、食物アレルギーについてもマスメディア等で目にする機会が増えています。講演ではこれらについて学ぶと共に、緊急時の対応や、最近では多くの方がご存知でアナフィラキシーの際に学校等でも使用可能になった「エピペン」の使用法についても詳しく説明していただきました。(当院にもAEDと共に常備してあります。)

エピペン写真

出席者も前回同様70名以上と多数で、活発な質疑応答もあり、企画した側としてはうれしい限りでしたが、学んだことや得られた情報を無駄にしないように肝に銘じて日々の診療に生かしていきたいと思います。
この2回の講演会で小児科医の先生方との交流や連携を強めることもできたように感じ、今後も情報交換できる体制を維持していきたいと考えています。
一方、未入会の歯科医師に講演会開催のお知らせを携えてアプローチする中で、何人かとは直接話をしたりメールをやり取りすることができ、今後の連携に向けて期待が持てる状況となりました。
理事の任期もあと半年。理事の立場にいるうちに実現したいと思っていた信頼する小児科医師による講演会の開催は2回も実施でき、今まで交流のなかった歯科医師との連携の端緒作りについても前進があったように思えます。これもバックアップしてくださった歯科医師会の、特に私が関与する委員会のメンバーのおかげです。
歯科医師会の理事を辞めた後も地域の医療・歯科医療の連携に寄与するような活動をしていきたいと思っています。