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乳歯に銀歯も大丈夫?

Q乳歯に銀歯を入れる治療とはどのようなものでしょうか?

「銀歯」というのは歯科用語ではなく、何を指すのかは人によって異なります。例えば、虫歯(むし歯)になった歯の一部を削り、型を取ってから後日に金属の修復物を装着する「インレー」と呼ばれている処置を、「銀歯」と呼ぶ場合もあると思います。

ここでは、乳歯既成金属冠(乳歯冠)のことを「銀歯」と定義して解説します。乳歯冠は審美性(見た目)が劣ることを除けば、とても優れた治療法です。しかし、多くの保護者の方が、疑問に感じる点も多いようです。まずは、その疑問からお答えしていきます。

写真は、重度虫歯(むし歯)の奥歯を銀歯(乳歯冠)で治療した4歳のお子さんのケースです。左写真が治療前、右写真が治療後です。

次の写真は、別のケースで、重度虫歯(むし歯)の奥歯2本を乳歯冠で、前歯4本の重度虫歯(むし歯)はピド・フォームクラウンで、それ以外は通常のCR修復で治療した3歳のお子さんの上の歯です。

Q乳歯に銀歯を入れた場合、身体に良くない影響はないですか?

銀歯(乳歯冠)もそれ以外の金属の修復物も、保険適用のものは全て歯科材料として国の認可を得ている安全なものです。装着することによる健康被害はありません。

しかし、金属アレルギーには注意が必要です。当院で使用している乳歯冠(3M社製ナイクロ乳歯冠)はステンレススチール製で、鉄、クロム、ニッケルから作られています。ニッケルまたはクロムにアレルギーのある方には使用できません。

乳歯冠以外の金属修復物についてもそれぞれに含まれる金属に対するアレルギーに注意が必要です。金属アレルギーをお持ちのお子さんの保護者の方は、歯科医師とよく相談して治療法を選択していただければと思います。

Q乳歯を銀歯で治療した後に永久歯への生え替わりは大丈夫ですか?

銀歯(乳歯冠)そのものが生えかわりに影響することはなく、乳歯冠で修復する前に歯髄(歯の内部)にどのような治療をしてあるかで異なります。治療の状況別に解説します。

状況➀
虫歯(むし歯)の範囲が広いため、乳歯冠で修復したが、虫歯(むし歯)が歯髄には達していなかった場合

健康な歯と同じように生えかわりの時期が近づくと乳歯の歯根が短くなって(歯根吸収 ※イメージとしては永久歯が乳歯の根を溶かしながら骨の中から上がってくる)きて揺れ始め、自然に脱落する可能性が高いです。

状況➁
虫歯(むし歯)が歯髄に達していたため、生活歯髄切断法をおこなってから乳歯冠で修復した場合

概ね自然に脱落しますが、歯根吸収がやや起きにくいこともあります。定期診査を続けていただき、必要があればタイミングの良い時期に抜歯します。

状況➂
歯髄全体が感染して膿んでしまっていたため、感染根管治療(歯の根の治療)をおこなってから乳歯冠で修復した場合

状況➀➁に比べて歯根吸収が起きにくく、自然に抜けない可能性が高くなります。定期診査を続け、生えかわりに時期が来たら抜歯する必要が➀➁より大きくなります。例えば、乳歯冠で治療した歯が抜けないうちに横から永久歯が生えてきてしまったら、抜歯が必要になります。そうでない場合もX線診査などで抜歯が必要かどうか判断します。

写真は幼児期に生活歯髄切断法(上記の状況➁)をおこなった後に乳歯冠で修復したお子さんの歯を、生えかわり期に抜歯したものです。

このケースについては、乳歯冠の横から永久歯が生えてきてしまったので抜歯にはなりましたが、4歯とも自然に生えかわっても不思議ではないほど歯根吸収が起きているのがわかります。

一方、現代のお子さんは歯ならびの関係(顎が狭くスペースが狭い)で、虫歯(むし歯)の治療経験がない歯でも自然に生えかわらないことが多々あります。奥歯、前歯に限らず乳歯が抜けないうちにその部分の永久歯が生え始めてしまうようなケースです。この場合も乳歯を歯科医院で抜く必要があります。

乳歯冠での治療の有無にかかわらず、定期診査を受け続けて必要があれば生えかわりを助けるために乳歯を抜歯することがあると考えてください。ことさら銀歯だから生えかわりにくいとは必ずしも言えません。

Q乳歯の銀歯はどのような場合に適応されますか?

比較的重度の乳歯の奥歯の虫歯(むし歯)の際に使用します。

歯の全面が虫歯(むし歯)になってしまった場合、虫歯(むし歯)が歯髄(歯の内部)まで達していて生活歯髄切断法をおこなった後や、歯髄が感染して膿んでしまい感染根管治療をおこなった後は、歯の強度が低くなるため乳歯冠で治療しておけば安心です。一つ上の回答もご参照ください。当院では、3M社のナイクロ乳歯冠を使用しています。いくつものサイズの中からちょうど良い大きさの乳歯冠を選び、さらにそれがピッタリ入るように歯を削るのはある程度の熟練を要します。

虫歯(むし歯)の治療開始をきっかけに保護者の方がお子さんの食生活を大きく見直し、ブラッシングもとてもがんばってくださることで、その後は虫歯(むし歯)にならないというケースもあります。しかし、多くの場合は生活にそこまで急激な変化は起こらず、虫歯(むし歯)の多かったお子さんはその後も虫歯(むし歯)になりやすい傾向が続きます。

乳歯冠で治療した歯は二度と虫歯(むし歯)になりません。一方、CR修復(歯と同色のプラスチックの材料)では充填物の境目から再び虫歯(むし歯)が発症してしまいがちです。

下の写真は重度虫歯(むし歯)1歯を乳歯冠で治療、軽度の1歯をCRで修復し、3年間定期診査に来院されなかったお子さんのその後です。

乳歯冠で治療した歯は全く無傷ですが、当時はきれいに治療したはずのCRの方はご覧の有様です。

乳歯冠は虫歯(むし歯)になりやすいお子さんにとって、永久歯が生えてくるまでの期間に乳歯を虫歯(むし歯)から守ってくれる優れた治療法と言えます。

ある時、筆者(エンゼル歯科院長 佐々木)がTwitterに「乳歯冠は重度虫歯(むし歯)だった乳歯の奥歯を何でも噛める歯に変身させて、生えかわりまで成長を助けてくれるしっかり者。どんなに多くの歯科医と子どもがこいつに助けられてきたことか。たしかに見た目はいかついが、あまり嫌わないではくれまいか。」と投稿しました。

それを読まれた「うさっぱ先生」(歯科医師で漫画家・イラストレーター @usappa_)が後日漫画にしてくださり、ご著書の「うさコレ」にも掲載してくださいました。

乳歯冠はたしかに見た目は良くありませんが、その性能はすばらしく、長い場合は10年以上もお子さんの歯の健康を守り、成長を助けてくれるしっかり者なのです。

Q銀歯のメリット、デメリットはありますか?

乳歯冠のデメリットは審美性(見た目)が良くないという点につきます。

また、乳歯冠修復は歯科医師に特有の技術が必要です。この治療法に習熟した歯科医師や乳歯冠自体を用意している歯科医院が限られる点もデメリットと言えるかもしれません。

アメリカなどでは成人と同様にジルコニアクラウンという見た目がきれいな修復方法も多用されているようですが、日本では保険適用でないために乳歯でも1歯あたり数万円の費用がかかります。ジルコニアは硬いために健康な乳歯のように徐々にすり減ることがないため、乳歯に適した治療法とは言えない面もあります。
乳歯冠と同じような性能を持つ治療法で審美性に優れた材料が保険適用される日が待たれるところです。

乳歯冠のメリットをまとめると、

①型を取る必要がないため即日で修復が完了する。
②虫歯(むし歯)になりやすいお子さんでも一度乳歯冠で修復すれば、その歯は生えかわりまでの期間を通じて虫歯(むし歯)から守られる。
③重度の虫歯(むし歯)によって失われた咬み合わせを元のように回復し、何でもしっかり食べられるようになる。
④ある程度柔らかい材料でできていて、健康な乳歯同様適度にすり減るので、顎の関節等への負担が少ない。
(穴があいた場合は適宜修復可能)

⑤保険適用なので小児医療費の助成があれば無料、3割負担でも6歳未満で1歯2,000円程度と費用が安い

などがあります。

Q歯の全体を覆うのでなく一部分に銀歯が入っています。身体への影響はないですか?

これは先述の解説内で登場した「インレー」という治療方法です。

乳歯が既に金属のインレーで修復してあるお子さんについては、その金属(乳歯の場合は銀合金が多いです)に対するアレルギーがなければ心配はありません。

また、インレー修復は歯髄処置(歯の内部の治療)をしていないことがほとんどなので、生えかわりについても健康な歯と同じと考えて良いです。

金属のインレーは比較的小さな虫歯(むし歯)の治療に使われますが、型を取って次回に装着するため治療回数がかかること、やや脱落しやすいこと、CR修復(プラスチックの一種による治療)の強度や接着性能が高くなったことなどからあまり実施されなくなりました。

当院では治療回数が少なくて済むCR修復をラバーダム防湿化で実施しており、乳歯に金属のインレーはおこないません。

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※症例写真はすべて、患者さん・保護者の承諾を得て掲載しております

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