子どもの虫歯(むし歯)を少ない回数で確実に治療する

そうか、この方法なら少ない通院回数で確実にお子さんの歯科治療は進む!
当時、歯科医師になったばかりの若かりし私は、勤務医として就職した歯科医院「エンゼル歯科」(私の診療所の前身)院長の槙本光先生に師事して小児歯科診療を学び始めてすぐに理解しました。
これなら私のように子どもの頃に歯の健康に恵まれなくても乳歯のうちから確実に虫歯(むし歯)の治療が完了する。
治療結果も良好で学校や幼稚園・保育園の歯科健診もクリアできる!
そして、咬翼法Ⅹ線診査を含む定期診査を受けていけば、大人になった時にはきれいな口の中になる!

まさに目から鱗とはこのことです。
私自身がかつて受けてきた小児歯科医療とは全く別の世界がそこにありました。
開業後の私の小児歯科診療は、その頃修得したスタイルをほとんど変えることなく現在に至っています。

写真は、最近当院で治療した初診時3歳2か月の重度虫歯(むし歯)のお子さんです。
今は小児の虫歯(むし歯)が少ない時代となりましたので、お子さんの歯の痛みと共に保護者の心の痛みも小さくはないでしょう。
これを治療できるのか?と保護者の方も当初は懐疑的でした。

3y2mECC初診時

前歯4本が膿んでしまっていて見た目にも絶望的にさえ思えますが、7回目には下の写真まで治療が進みました。
こうなってくると、お子さんの歯の治療を半ばあきらめてケアにも関心の薄かった保護者にも変化が生じ、熱心にブラッシングしてくださるようになりました。

3y2mECC7回目

通院9回で治療が終わり、10回目には保護者の方にブラッシング練習をしていただきました。

3y2mECC10回目TBI時

もちろん、このお子さんが健康な永久歯を獲得していくのには相当の努力を要します。
しかし的確な乳歯への治療が将来の虫歯(むし歯)予防への第一歩でもあるのです。

もともとは師匠の師匠、大森郁朗先生がアメリカから持ち帰られたシステムで、局所麻酔、ラバーダム防湿下で数本の歯を一度に治療する方法をOne Quadrant Treatment Systemと呼びます。当院では略してOQTシステムとしています。

OQTシステム

治療の際は、歯が膿んでいる場合を除き局所麻酔(痛くない方法で実施します)で痛みを極力感じないようにします。
軽度の虫歯(むし歯)にはコンポジットレジン(CR)修復をし、重度の歯髄まで達する虫歯(むし歯)に対しては生活歯髄切断法(歯髄の上半分を薬に置き換える治療法)をおこなってから修復しますが、どちらも当日中に治療が終わります。

このシステムでは初診時には治療と予防の計画を立て、その内容と共に何回で終了するかが保護者に伝えられます。
歯が膿んでしまっていなければ多数歯の治療でも7~8回、通常は5~6回以内で全ての歯の治療が完了します。

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治療完了後は虫歯(むし歯)のリスクに応じて3~6か月ごとに定期診査を実施し、必要があれば咬翼法Ⅹ線を撮影して歯の間に新たな虫歯(むし歯)がないかチェックします。
歯の1本1本の詳しい記録を取って保存し、治療を免れた奥歯にはできるだけ早くシーラントをしていきます。
これを続ければ、たとえ子どもの頃に虫歯(むし歯)が多くても将来は歯で苦労しない人生を送ることができます。
この診療システムやそれに近いものを学んだ歯科医師は全国にいますが、全体から見れば数は多いとは言えません。
下記する私の体験のような、終わりの見えない小児への歯科治療は現代でもおこなわれています。

たいへんお恥ずかしい話ですが、私は歯科医師でありながら歯は健康ではありません。
家族にさえあまり話したことはないのですが、小児歯科医療の大切さを知っていただきたいので思い切って記します。
子ども時代の私は甘い飲み物を飲み、お菓子をよく食べていて小学校低学年で既に虫歯(むし歯)だらけでした。
その頃は子どもの約90%に虫歯(むし歯)がある時代でしたが、その中にあっても最悪に近い口の中でした。
最近、1歳児の折れた歯の放置から脳に感染したという報告例がありましたが、乳歯の虫歯(むし歯)からも同じことが起こり得ますから乳歯の虫歯(むし歯)を軽視してはいけません。
当時の私は歯が痛くて眠れなかったり、虫歯(むし歯)からの蜂窩織炎で顔まで腫れたこともありました。
その後も歯のことでとても苦しみ、痛みや外観に悩んだ青春時代を送りました。

父は歯科医師だったのですが自宅とは離れた場所で開業しており、小学生の頃はバスや電車でそこまで通院しました。
亡き父は入れ歯の患者さんを得意としていたり、障がいのある方を積極的に診療したりしていて先輩歯科医師として尊敬しています。
しかし、父が歯科の教育を受けた頃はまだ「小児歯科」という分野ができる前でもあり、父にとっても息子の治療は悩みの種だったかもしれません。
上記した大森先生が帰国されて日本の大学で小児歯科の教育と診療を始められ、小児歯科の世界が大きく変わっていく端緒となるのはこの数年後になります。
私の歯については痛みを止めてもらうことは叶っても、何回通院しても一向に完了する様子もなく1本ずつ治療している歯以外の歯が次々に虫歯(むし歯)になっていき、やがては永久歯まで抜歯となりました。
虫歯(むし歯)治療は終わりのないものかのように思っておりました。

その後、歯科大学に入学した後と勤務医の頃に歯を治療し、最近では大学の後輩に当たるとても信頼できる歯科医師を主治医としています。
しかし、子どもの頃に的確な歯科治療やじゅうぶんなケアを受けることができなかった代償として、口の中は補綴物(クラウンやブリッジ)が多く、それらの経年劣化等に今でも悩まされています。

最近の私の歯のパノラマⅩ線写真です。
医療関係の方でなくても、たくさんの人工物が入っている口の中であることがおわかりいただけるかと思います。

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私ほど子どもの頃の歯の大切さを身をもって痛感している歯科医師も他にはなかなかいないでしょう。
こうなったのは自分の健康観の欠如も原因ではありますが、そうした意識が芽生えた思春期頃には既に状況は悪化していました。
やはり乳幼児期の環境や、良質な歯科医療とのかかわりがその後の運命を決めるように思います。

重度虫歯(むし歯)の治療が終わったお子さんが定期診査にみえた際に、ケアがじゅうぶんでない保護者にはついつい厳しめのことを言ってしまいがちなのはお許しいただきたいと思います。
私もかつて子育てをしましたから、いろいろなご家庭のご事情があって行き届かない時があることもよくわかってはいます。

今でも、長期間通院したのに充填しては脱落を繰り返したり、治療した歯が何度も膿んで炎症を起こしたお子さん(こうした歯が多いと当院であっても治療回数はかかります)や、嫌がったからと中断になって治療が進捗しなかったお子さんの保護者が当院を探し当てて遠方から来てくださることがあります。
私の子ども時代のように、深い森の中を彷徨う終わりなき旅のような小児への歯科治療をいくら受けても進展はせず、お子さんの明るい将来も見通せません。
そんなお子さんを減らし、子どもの頃に虫歯(むし歯)が多かったとしても将来は健康な歯で成人できるお子さんをひとりでも増やすお手伝いを、これからも続けていきたいと思います。

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