2023年12月19日
食具の共用と虫歯(むし歯)予防
2023年は子どものむし歯予防に関して、二つの激震が走った年でした。
一つは、既にお伝えしましたが1月に日本小児歯科学会など4学会から合同発信されたフッ化物配合歯みがき剤の推奨濃度の変更でした。
歯が生えてまもない乳児でもフッ化物濃度950ppmの、6歳以上なら1450ppmの歯みがき剤の使用が新たに推奨されることとなりました。日本で1450ppmの歯みがき剤が成人用として認可、発売されたのが2017年ですから、ペースが速くて私たち歯科関係者でもついていくのがたいへんです。
もう一つは、8月に日本口腔衛生学会から発信された「乳幼児期における親との食器共有について」です。要約すると生後4か月で既に母親の口腔細菌は子どもに伝播しているので、その後の離乳食などの際に食器やスプーンの共有を避けることでむし歯を予防しようと気にしすぎる必要はない、という内容です。テレビやネットでニュースとなりました。
私自身も数年前までは食器の共有やスプーン上でフーフー冷ました食品をお子さんに与えるのはやめましょう、とお話ししていました。しかし、これに関してはあまり意味がないという認識を歯科関係者の多くが最近には共有していましたので、今回のこの発信については歯科関係者よりも一般の方々のショックの方が大きかったように思います。
以前の「食器共有は避けましょう」という頃に、保護者の大多数が1回だけのスプーンの共有による唾液の移動でその瞬間に感染すると誤解しているな、とは感じていました。むし歯の原因菌の伝播は、日々濃厚に接触している大人から子どもへと起きるのです。ですから、たまに自宅に遊びに来て自分のスプーンでお子さんに食べ物を与えた人を責める必要はないのです。
そして今回は食器の共有を避けても細菌の伝播は防ぎきれない、と発信されたわけです。ここで「感染」でなく「伝播」という言葉を使っているのは、むし歯は単一の細菌(たとえばミュータンス菌)が引き起こす疾患ではないことなどからWHO(世界保健機構)では「非伝染性疾患」と位置づけられるようになったからです。つまりは一つの種類のウイルスや細菌が引き起こすコロナや結核のような感染症とは異なるということです。
しかし、この日本口腔衛生学会の発信の後、主として小児科医の間から一般的な感染症の予防のためには食器の共用はやはり避けた方が良いという声が上がりました。新型コロナやインフルエンザにかかった人と洗う前のスプーン等を共用しないことは、他の人への感染予防に有効です。サイトメガロウイルス等の子どもから妊婦への感染予防のためにも食器の共用や頬や唇へのキスはやめましょうと提唱されています。
今回の発信により「なーんだ、気をつけなくても良かったんだ」と思う人が増えてせっかく定着してきた食器の共有を避けるという習慣が薄れてしまうと、むし歯に関してはあまり気にしなくて良くても感染症の予防の上では望ましくない、ということを小児科の先生たちは心配しているわけです。
私たちはコロナ禍のこの4年間で感染予防について多くを学び、いくつかの習慣を見直しました。手洗いをしっかりしたり、飛沫や唾液に気をつけたりするようにもなりました。
神経質になり過ぎる必要はないかもしれませんが、唾液が交換するような食器やスプーンの共用はやはり基本的に避けた方が良いのではないかと思います。
蛇足
診療所を移転してから待合室に海水魚水槽を設置しました。
もともと海や生き物や釣りが好きで、過去には自分自身でも海水魚の飼育経験もあります。
いまの水槽はメンテナンスを専門業者さんに依頼していますが、興味深い生態を観察できたり、入れた覚えのないシャコやカニがいつの間にか生息していたりと、日々見ていて飽きないです。
子どもたち以上に夢中になって見ています。