2018年09月27日
園や学校の歯科健診をクリアするには
保育園、幼稚園、学校等の歯科健診で虫歯(むし歯)を指摘されたので治療を受けたが、再度「虫歯(むし歯)があります」という受診のすすめをもらってしまう、という悩みをお持ちの保護者の方も少なくないように思います。
園や学校の集団歯科健診では、歯科医院における精査に比べて診査の精度ははるかに低く正確な診断の場ではないこと、一方でこうした集団健診にも意味はあることは一つ前の記事をはじめ過去にもこのブログに記してきました。
私は小学校の学校歯科医と保育園の歯科園医をしており、日本学校歯科医会にも所属していて集団健診の方法や基準については研修会で何度も学んできました。
これらの知識や経験から、「虫歯(むし歯)治療済み」と「治療の形跡はあっても虫歯(むし歯)と判定せざるを得ない」ケースを判別しています。
私を含め、それぞれの園や学校の健診を担当する歯科医師は前述した研修を必ず受けていることもあって、判断の基準にそれほど大きなばらつきはないはずです。
写真のケースでは乳歯の奥歯の間にCR修復という治療がしてあるようですが、どなたがご覧になっても黒い部分がわかり、明らかに問題があるでしょう。
生えかわりの時期が全く異なる2歯に、橋渡しのようにまたがって充填されてしまってもいます。
歯科治療を嫌がらず、泣いたり動いたりもしないお子さんの歯です。
歯科学的にはありえない処置内容ですが、もしも最大限善意に解釈するならば、これは何らかの応急的な処置だったのかもしれませんし、歯科医院の診療設備が故障してしまっていた等の事情があったのかもしれません。
しかし、このような状態を園や学校の健診で「虫歯(むし歯)治療済み」と判定することはできないのです。
私の歯科医院でCR修復をやり直した結果が下の写真です。
これなら、園や学校でどの歯科医師が健診をしても「虫歯(むし歯)治療済み」と判定するだろうことは、容易におわかりいただけるのではないでしょうか。
上記は極端な例ですが、適切な歯科医療がされている場合は、保護者の方々が見ても黒い部分や段差がなくて、形にも違和感がないはずです。
最近では私のような小児歯科専門医で小児歯科に特化した歯科医院は少なくなり、低年齢児を受け入れる歯科医院も増えてきました。
自宅から近くて託児や駐車場、夜間や日曜の診療など、診療以外の部分での利便性が髙い歯科医院は通院しやすいでしょう。
しかし、「小児歯科」と看板に掲げてあってもその診療内容は実に様々です。
私が歯科園医をしている保育園の園児の中には、歯髄に達する「C3」と判定される深い虫歯(むし歯)があるので「受診のすすめ」にその旨記載しても、泣かずに治療できる年齢であるのに受診先の歯科医院では治療や処置を全くせずに「経過観察します」という返事が戻ってくるケースさえあります。
ここ数年このような「進行したむし歯(虫歯)に対して何の治療も処置もしない」という歯科医院の対応結果を、3歳児健診や保育園健診でもたびたび目にするようになりました。
この現象は、近年横行している歯科医院開業戦略のようなことと関係があるのですが、ここでは詳述は控えます。
また、処置をしないのとは逆に積極的に診療した形跡はあっても、深い森の中に迷い込んで出口が見いだせなかったかのような症例が私の診療所にたどり着くこともあります。
十数回も通院してきたのに治療が済んだはずの歯の充填物が脱落したり、化膿して歯肉が腫れてきたりという状態が口の中の随所に見られるようなお子さんです。
上の写真で再治療結果をご覧いただいたお子さんもその中のお一人ですが、同様の例は急増しています。
乳歯の虫歯(むし歯)を放置したり、治療結果が思わしくなく化膿してしまうと、永久歯やその後のお子さんの成長に様々な影響を及ぼしてしまいます。
(これについては稿を改めたいと思います。)
次のような状況にあるとお感じになる保護者の方は、ぜひ一度小児歯科専門医や全国小児歯科開業医会の会員診療所にご相談ください。(リストにある歯科医師でも診療方針はそれぞれ違いますが、良質な小児歯科診療に出会うことのできる確率は高いです。)
・「小児歯科」と書いてある歯科医院を受診したが、お子さんが低年齢であったり診療に協力しないことから治療が進まない。
・歯科医院に慣れるためのトレーニングや応急的な処置が続き、長期間通院しても治療が開始されない。
・お子さんが泣いたり嫌がったりすると治療が中止され、それが繰り返されている。
・あと何回通院すれば治療が終了するのかがはっきりしない。
・保育園・幼稚園や学校の歯科健診で毎回のようにむし歯と判定され、通院しても再び指摘される。
・一度治療した歯の修復物が脱落を繰り返す。
・治療が終わった歯の歯肉が腫れて膿を持っている。
・治療済みの歯を見ると色や形に問題があるように思える。
・診査にかける時間が短く、むし歯や過剰歯(余分な歯)の検出のためのX線撮影をしたことがない。
もちろん、歯科医師の考え方に沿ってお子さんの発達に応じたペースで診療を進めていくことで良いのです。
年齢やお子さんの様子に応じて治療開始時期や内容を相談していくということも大切です。
その一方、乳歯のむし歯は進行が極めて早く、かなり進行しても痛みが出ないという特徴があるため、早期発見、早期治療(ただし的確で精緻な)が重要であることも忘れてはなりません。
小児歯科の専門医の資格を有していなくても、また、簡単に入会できる小児歯科学会の会員ですらなくても「小児歯科」と標榜(看板に掲げること)することは自由なので「小児歯科」と書いてある歯科医院は数多くありますが、日本小児歯科学会の認定専門医で開業している歯科医師少なく、たとえば平塚市には私を含めて3名しかおりません。
お困りの場合には小児歯科専門医にご相談いただければ必ずお役に立てることと思います。
以前の当ブログ「歯科健診をクリアするには」にもだいたい同じようなことを書いておりますが、このところ気になるケースが増加したこともあって多少切り口を変えて書いてみました。