2015年09月12日
虫歯(むし歯)の集中豪雨(虫歯の洪水の現代版)
今年は台風、突風、大雨などの自然災害による被害が多いようです。
この数日間も各地で水害がありました。
被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
歯科の領域では1970年前後(昭和40年代から50年代頃)に、子どもの虫歯(むし歯)が日本中に蔓延し「虫歯(むし歯)の洪水」と呼ばれた時代がありました。
その後、歯科医療や保健、教育、保育分野をはじめとする多くの関係職種の方々の取り組みにより、子どもたちの虫歯(むし歯)は減少しました。
しかし、様々な生活背景の中で、今でも一部の子どもたちには低年齢で重症の虫歯(むし歯)が発症し、E.C.C.(Early Childhood Caries)と呼ばれていて小児歯科学会でも対策の必要性が指摘されています。
虫歯(むし歯)減少の時代から取り残されてしまった子どもたちも決して少なくはないのです。
⇒むし歯減少の時代から取り残された子どもたち
そして近年は、重症虫歯(むし歯)の子どもたちが、それに対して的確な治療がおこなえる数少ない歯科医療機関・歯科医師のもとに一極集中する「虫歯(むし歯)の集中豪雨」と呼びたくなるような現象が起きています。
なぜ、虫歯(むし歯)の集中豪雨が起きるのでしょうか?
その理由についてはいろいろな観点から考える必要がありそうです。
まず最初の視点は
「小児歯科」と書いてある歯科医院でも子どもの虫歯(むし歯)治療への対応力は様々
ということと関連があります。
「小児歯科」と標榜(ひょうぼう=看板に掲げること)するのは歯科医師であれば自由なので、日本の歯科医院の半数以上に「小児歯科」と書いてあり、その数は年々増加しています。が、小児歯科を標榜する歯科医院のおよそ9割は日本小児歯科学会の会員ではありません。
日本小児歯科学会でもこのことを現状と課題と認識し対策に取り組んでいます。
「小児歯科」と書いてある歯科医院の歯科医師の多くが小児歯科学会からの情報を受け取っていないし、その全てが必ずしも低年齢児の歯科治療、わけても重症のE.C.C.(低年齢で発症するの重症虫歯(むし歯))の治療経験が豊富なわけではないのです。
一方で「虫歯(むし歯)の洪水」の頃から長年小児の治療に取り組んできた歯科医師の中にはそろそろ第一線から退こうという方々もいらして、対応できる歯科医療機関の数はむしろ減っていくことが危惧されます。
こうした流れから小児歯科専門の開業歯科医や大学病院歯学部の小児歯科は、毎日のように来院する重症虫歯(むし歯)のお子さんの治療に追われているのが実情です。
日本小児歯科学会で認定を受けている小児歯科専門医は厚生労働省からその旨を表示・広告することを許されてはいますが、その人数は多くありません。上記したように「小児歯科」と掲げるのは自由なので、保護者の方々からみれば専門医と区別はつきません。近所の歯科医院のほとんどに「小児歯科」と書いてあるわけです。虫歯(むし歯)が深刻でない多くのお子さんはそうした歯科医院で治療やケアを受けることでも問題なく経過する場合もあるでしょう。
しかし、1~2歳の低年齢で重症の虫歯(むし歯)になってしまったお子さんや、年齢、個性、今までの経験、発達障がいなどいろいろな理由で歯科治療にスムースに協力できない重症虫歯(むし歯)のお子さんの保護者の方々が、家の近くの「小児歯科」と書いてある歯科医院を受診しても問題が解決しないことがあります。
状況が逼迫していても治療を受けられず「歯みがき」「食生活」「フッ素による予防」などの話だけで終わってしまう例もあるようです。
本来であれば緊急性のあるケースでは歯科医療機関の間での紹介や依頼があるべきなのですが、いくつかの理由で近年はそれもなされないことが多く、保護者が自ら治療を受けられそうな歯科医療機関をインターネット等で探すことになります。
小児の重症虫歯(むし歯)のへの対応力のある歯科医療機関が相対的に減っていることや「小児歯科」標榜と専門性の不一致という混乱が増す中で、先に受診した歯科医院からの紹介や依頼があった場合も含め、結果として重症虫歯(むし歯)のお子さんが特定の歯科医療機関に集中します。
紹介や依頼があれば治療開始のタイミングを逸することも少ないのですが、保護者ご自身が探された場合には時間の経過とともに重症度が増してしまっていることもあります。
もちろん、低年齢での歯科治療は安全面からも避けたいのは私たち小児歯科専門医も同じですが、虫歯(むし歯)が重症であれば1~2歳児でも応急的ではあっても歯を削って膿を出すなどが必要なケースがあり、放置すれば炎症が進展して入院加療となることもあります。
心配な状況の方は、多少遠方でも小児歯科専門医のいる歯科医療機関(日本小児歯科学会やJSPP全国小児歯科開業医会のサイトで検索可能です)を受診することをお勧めします。
その受診先では上記したように虫歯(むし歯)の集中豪雨が起きているわけですが、小児歯科の専門性の高い歯科医師が必ずいますので紹介や依頼を得られない場合でも保護者の方々の決断による早めの方向転換が状況を打開します。
下の写真は1歳5か月で虫歯(むし歯)治療に踏み切らざるを得なかったケースの治療前と治療後です。
「虫歯(むし歯)の集中豪雨」がなぜ起きているのか、さらに別の角度からも理由が推測されますので、後日に追記したいと思います。