2012年01月28日
ネットやメディアの功罪
遅ればせながら明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
先日、グルメ系の口コミサイトでのやらせ業者による順位操作が社会問題になりました。
故意の操作がなくても実態とは違う評価がひとり歩きすることもある、と解説する識者もいました。
歯科医療の世界でも多くのランキングサイトや出版物で「良い歯科医院」が紹介されています。
レストランでは、設備やサービスという見える部分に加えて、料理が美味しいかどうかということが評価を左右しますが、歯科医院ではレストランの「味」に当たる治療技術や実績が客観的に非常にわかりにくいと言えます。
私たちは、他の歯科医院がどのような治療結果を残しているかを患者さんの口の中を通じて垣間見ることができるので、ときにはネットのランキングとは裏腹な状況に遭遇することもあり、グルメ系で起きたのと同じことが起きているのを実感します。
ですから、信憑性の程度はそれぞれではありますが、当院も週刊朝日や関連のムック「いい歯医者」はじめ様々な雑誌やメディアで紹介していただきました。
乳幼児の重度むし歯(虫歯)を積極的に治療している歯科医院は全国的にも少ないことから、一部の方々からは高い評価をいただいています。
反面、「泣く子を抑えて治療する」「毎回ラバーダム(*説明は下に)を使用することで苦痛を与える」といったご批判をいただくこともあります。
優しくてニコニコしていて簡単な処置を短時間で終わらせてくれる歯科医師は、治療を嫌がるお子さんや不安でいっぱいの保護者から見れば良い歯医者に映るかもしれません。
むし歯(虫歯)がなくて予防処置を求める場合や、むし歯(虫歯)が軽度であれば、いろいろな選択肢の中から、お子さんが泣かないで済む軽い処置を選ぶのも良いと思います。
しかし、重度のむし歯(虫歯)のお子さんに対し、フッ化物を塗るだけしかしない、あるいはラバーダム*も使わずに唾液にまみれた状態で短時間で処置を済ませてしまったり「歯みがきをがんばりましょう」という精神論?的な話をするだけ、ということでは、問題の解決にはなりません。
たしかにかわいそうではありますが、お子さんが泣いても確実な治療が必要なこともありますし、それは必ず将来の歯の健康につながります。
以前はネット上での評価に一喜一憂していたこともありましたが、今では自分の歩む道を正しいと信じることができるようになったせいか、あまり気にならなくなりました。
写真の患者さんは1歳代で治療した後に定期診査を続け、ご家族のがんばりもあって最初の治療から10年後の永久歯については比較的健康な状態を獲得することができた例です。
前歯は乳歯のむし歯(虫歯)からの感染を受けずにきれいな永久歯に生えかわっています。
当院スタッフや私は、こうしたケースを励みとして、微力ながらもがんばろうと思うわけです。
*ラバーダムとは、唾液などの水分から歯を隔離するラテックス製の膜状の用具。唾液や雑菌の侵入を防ぐ以外に、高速回転する歯科の機械や刺激の強い薬剤から舌や頬の粘膜を守ったり、誤って異物を飲み込む事故を防いだりする役目もあり、小児の歯科処置には不可欠。2011年7月10日の記事に写真があります。