2010年09月25日
乳幼児の虫歯治療(むし歯治療)の受診先のこと
乳幼児の虫歯治療(むし歯治療)の方法や手順については、この日記でも当院サイトでもご紹介しています。
https://angel-dc.com/12-1-01.html
https://angel-dc.com/12-1-01-03.html
しかし、このような治療を実施しているのは小児歯科専門医などごく一部の歯科医療機関に過ぎません。
先日、週刊朝日の「いい歯医者2011」事務局からアンケートが送付されてきました。
以前に、小児歯科学会の認定専門医として週刊朝日誌上と「Q&Aでわかる いい歯医者」というムックで当院もリストに加えていただいたこととの関連です。
そのアンケートの自由回答欄に私はこんなことを書きました。
「近年、乳幼児のむし歯(虫歯)は全体としては減少・軽症化していますが、一部には(長期の授乳や哺乳瓶使用等の生活習慣を背景として)今でも1~2歳の低年齢で重度むし歯(虫歯)になってしまう例があります。
何軒かの歯科医院を受診しても解決せず、ネット等で当院を探し当てて遠方から来院される患者さんが近年急に増えています。
この現象の背景には、低年齢児のむし歯治療スキルを持った歯科医師が引退などで減少していることや、小児歯科の専門技術を有していても診療の主体を矯正診療やファミリー診療にシフトする例が多くなったためにスキルを有する歯科医院と「小学生などの子どもも診ますよ」という意味で小児歯科を標榜している歯科医院とが判別しにくいこと、などがあるように思います。
少数とはいえ重度むし歯(虫歯)の乳幼児は存在し、今の子育て事情の中では捨て置けない問題と思います。
一方、全体としては特に若手の歯科医師が乳幼児の重度むし歯(虫歯)を研修、経験する機会が減ったためか、医療者側の取り組みレベル、対応力が低下していることに危機感を抱いています。」
事実、この1~2年に当院に来院される新患の中には、1歳代で重度むし歯になっているケースが目立ちます。
むし歯(虫歯)の重症化、低年齢化に拍車がかかったようにさえ思えます。
下の写真は1歳1ヶ月でむし歯(虫歯)から歯肉膿瘍(しにくのうよう=化膿して歯ぐきが腫れた状態)になってしまったケースです。(治療は困難ですが可能です。)
そして、最近の傾向として特徴的なのは、既に何軒かの歯科医院を受診し、場合によってはなんらかの処置を受けている(とはいえ、問題解決=適切な治療には至っていない)例が多いことでしょう。
こうしたお子さんの保護者の方々は、ネット検索などで受診先を探しに探した結果、当院にたどりつくようです。
中には県外、それも数百キロ離れた遠方からいらっしゃる方や海外から一時帰国して来院される方も・・・。
これは一部想像ですが、低年齢で重度むし歯(虫歯)になってしまったお子さんの保護者(当然30代前後の方々が多いでしょう)が受診先を探すとして、日本小児歯科学会の認定専門医制度
http://www.jspd.or.jp/specialist_doctor/index.htm
http://www.jspd.or.jp/authorized_doctor/index.htm
のことや
全国小児歯科開業医会(JSPP)
http://www.jspp.net/cgi-bin/search/index.cgi?search_top
の存在をご存知なかったとすれば、自宅に近くて見やすいホームページがあって「小児歯科」を標榜している、保護者の方々と年代が近い院長の歯科医院を受診することが多いのではないかと思います。
でも考えてみてください。小児のむし歯(虫歯)が全体としては少なくなった1990年代以降に歯科の教育を受け、その後の研修を経た歯科医師は(小児歯科に重点を置いたトレーニングを受けた方を除いて)3歳未満の重度むし歯(虫歯)のお子さんを1回も診察したことがない可能性すらあります。
地域の歯科医師会の会員であれば、小児に限らず自分の守備範囲を超えている患者さんはしかるべき受診先を紹介するのが普通です。
しかし、会員でない場合は地域の専門医との連携が薄いため、なんとか自力で対処しようとする傾向もあるかもしれません。
歯科医院経営への影響を考えると「対応できない」とは言いにくい事情もあるでしょう。
一所懸命になんとかしようとするとしても、限界点が高くないこともあり得ます。
スポーツではベストを尽くせば試合に負けても評価されますが、医療においては結果も重要なのは申し上げるまでもありません。
既にむし歯(虫歯)から化膿性の炎症に移行し、歯ぐきが膿んでいる1歳児に対し、「歯みがきをがんばりましょう」という指導のみ、ということさえあるようです。
これは、足を骨折して苦しんでいる人に積極的な治療をせずに「一歩ずつ歩いてみましょう」と言っているのと同じです。
日本では、標榜(看板を掲げること)や広告に制限があることもあって、一般の方々が医療機関の専門性を見分けるのが困難な面があります。
そのような法的状況下にあって、小児歯科に限らないことですが専門のスキルを有しないのに図らずも受診先となった医療機関を責めることは必ずしも妥当ではありません。
また、近年は諸般の事情で歯科医師会への入会率も低下していることも関連し、他の医療機関との連携を期待できない歯科医院が増えている様子なのも残念です。
ネットが発達した昨今とはいえ、低年齢児のむし歯(虫歯)治療に関する情報が、なかなか必要としている方々に届かず、解決に至るまでにあちこち受診を繰り返すという状況はなんとかならないものかと思います。