2010年01月30日
乳歯の治療 特にあかちゃんのむし歯(赤ちゃんの虫歯)治療
あかちゃんというのは生後どのくらいまでを言うのか、はっきりした定義はないようです。
むし歯(虫歯)の原因菌が生後まもないあかちゃんの口の中には存在せず、歯が生えた後に保育者の口の中から移り住んでくることは、最近ではよく知られるようになりました。
そして、母乳と粉ミルクにかかわらず、授乳が長引いたお子さん、特に夜間の長時間授乳の習慣のあるお子さんの中には、まだ「あかちゃん」と言える満1歳頃からむし歯(虫歯)が始まるケースがあります。
こうしたお子さんの場合、1歳6ヶ月にもなると、むし歯がかなり進行し、歯の形が崩れてくることも少なくありません。
このような急速に進行する低年齢児の重度のむし歯(虫歯)(Early Childhood Caries(E.C.C)と近年呼ばれるようになりました)がなぜ起きるのかについては、様々な研究がなされていますが、明確な結論は出ていないようです。
母乳や、母乳に近い成分で作られている粉ミルク(人工乳)に直接の原因があるならば、それぞれの種の母乳で育っている子ザルや子犬、子ウサギもむし歯(虫歯)になるはずですが、実際にはヒト(人間)だけに見られる現象のようです。
離乳食等に含まれる砂糖が関与すると考えられていますが、乳糖が原因とする研究者もいます。
このあたりの考察はhttps://angel-dc.com/kiji.pdf を参照いただくとして、授乳習慣が関連していることはまちがいないと思います。
また、極めて個人差が大きく、低年齢でむし歯(虫歯)が重症化してしまうお子さんは比率としてはわずかです。
厚生労働省の授乳・離乳の支援ガイドでは1歳6ヶ月頃までの授乳継続を容認した内容となっていて、これは大多数のお子さんにとっては問題がないのですが、1歳前後からむし歯(虫歯)が進行したお子さんは早めの卒乳が望まれます。
授乳習慣が背景にあるむし歯(虫歯)の特徴を私の経験から列挙してみると・・・
・満1歳前後の低年齢でも発症する。むし歯(虫歯)は急速に進行し、深刻化するのは1歳6ヶ月前後が多い。
・むし歯(虫歯)になるのは、上の前歯の主に裏側(口蓋側)が中心で、それに加えて上下の第一乳臼歯(奥歯)にも見られる。
・下の歯、特に前歯はこの時点でむし歯(虫歯)になることは少ない。
・左上の歯と右上の歯を比べると、むし歯(虫歯)の重症度に差があることが多い。
・長時間うとうとしながらの母乳あるいは哺乳びんによる授乳の習慣が今も続いているか、最近まで続いていた。
乳幼児のむし歯(虫歯)はいわゆる放漫な育児や、不規則な食生活によっても起こりますが、2歳前に発症する上記のような特徴を持ったむし歯(虫歯)の場合は、ごく標準的な子育てをしている普通のご家庭のお子さん、母乳育児のもとでじゅうぶんな愛情を注がれ、ケアを受けているお子さんにも起こります。
そのため、子育てに関してアバウトではなくむしろ高い意識を持ったご家庭の場合には、保護者の方々特にお母さんは、ご自分を責めたり傷ついたりしがちです。
中には、1歳6か月児健診などで健診担当の歯科医師やスタッフから授乳や食生活について厳しいことを言われたりして落ち込んでしまった、などというケースもあります。
さらには、具体的な対応や治療についての情報量が乏しく、何軒もの歯科医院に相談に行く方も少なくありません。私の歯科医院にたどりついたときには、かなり疲弊してしまっているご両親もいます。
まだ「あかちゃん」と言えるような年齢でむし歯(虫歯)になってしまったお子さんの保護者の方は、ぜひ小児歯科の専門医を受診してください。
専門医のリストは日本小児歯科学会のサイトhttp://www.jspd.or.jp/や、JSPP(全国小児歯科開業医会)のサイト
http://www.jspp.net/にあります。
治療方針は歯科医院によって違いますが、お子さんの年齢やむし歯の重症度等を総合的に考え、進行抑制剤(サホライド)(サホライドについてはhttp://angel-dc.at.webry.info/200902/article_1.html もお読みください。)を使用したりしながら、経過を見ていって、ある時点で積極的な治療に踏み切るという考え方の専門医が多いと思います。
上の写真は、1歳前半の重症むし歯(虫歯)をサホライドでコントロールした状態。
下の写真は、上の写真のお子さんを1歳後半で治療した後です。
低年齢で重度のむし歯(虫歯)になるお子さんは、比率としては少なく身近にもいないかもしれませんが、全国的に見れば相当数の方々が同じ悩みを持っています。解決策はありますから、力を落とさずに多少遠方であっても小児歯科専門医に相談してみてください。