2009年07月25日
子どものむし歯(虫歯)治療の将来に不安
子どものむし歯(虫歯)は、1960~70年代には非常に多く、「むし歯(虫歯)の洪水」と呼ばれて社会問題になっていました。しかし、その後は減少の一途をたどり、最近では、各種の歯科健診などで、重度のむし歯(虫歯)のお子さんに出会う機会はたしかに少なくなりました。
しかし、今でも低年齢なのに深刻なむし歯(虫歯)になってしまって困っている親子も全国的な視点で見れば、まだまだ多いのです。当院にはそんな方々が遠方からも来院されます。また、メール等で相談をいただいた場合にはJSPP(全国小児歯科開業医会)のホームページhttp://www.jspp.net/から少しでも近くの専門医をご紹介したりしています。
ところで、医療制度改革や不況の影響で、歯科医師もワーキングプアの仲間入りをするほど歯科医院経営は厳しい時代を迎えています。そんな中で最近開業した歯科医師の大多数は、できるだけ幅広い年齢層の患者さんの来院を期待して「小児歯科」も標榜(ひょうぼう=看板に掲げること)しています。そういう歯科医師は、開業前に高齢者から小児までひととおりの診療経験を積んでいるはずです。しかし、一地域における乳幼児のむし歯(虫歯)は減ってきたのですから、低年齢で重度のむし歯(虫歯)になってしまったお子さんの治療経験は、ほとんどないのがむしろ普通ではないでしょうか。
重度のむし歯になってしまった乳幼児が受診した場合、もちろん、できるだけの対応はしようとするのでしょうが、実際にはサホライドすら塗らないで「歯みがきとフッ素塗布でがんばって、もう少し大きくなったら治療しましょう」というような中途半端な経過観察が続いてしまう例もあります。
(サホライドについてはhttps://angel-dc.at.webry.info/200902/article_1.htmlをお読みください。)
そうこうしているうちに、お子さんのむし歯(虫歯)は進行してしまい、いよいよ切羽詰った保護者の方がネット等で必死で受診先を探している様子が、当院にいただく相談メール等からもうかがえます。そもそも、小児歯科を標榜している歯科医院と、専門性の高い小児歯科診療を実践している歯科医院の区別が曖昧なことにも問題があるかもしれません。
また、小児歯科診療の研鑽を積んだ歯科医師でも、近年では小児歯科専門で開業することは少なく、家族全員を診療するファミリーデンティストとなったり、歯列矯正に力点を移したりする傾向にあります。そのため、患者さん側から見たときの専門性の程度がわかりにくくなってもいます。
(過去の記事「小児歯科ってなに?その3」https://angel-dc.at.webry.info/200701/article_4.htmlもご参考ください。)
「むし歯(虫歯)の洪水」の時代に第一線で活躍し、高度な小児歯科診療技術を持った歯科医師もそろそろ壮年期にさしかかっています。その技術を受け継いだ私たちも決して若くはありません。
つい先日、週刊朝日に掲載された「小児歯科の「いい歯医者」-失敗しない歯科医の選び方 小児歯科」という記事に、うれしいことに当院も掲載されていましたが、データにあった各歯科医師の卒業年度を見ると、予想どおり私などは若手の方に属するくらいでした。
重度のむし歯(虫歯)のお子さんを確実に治療することのできる歯科医院は、今後ますます減るでしょう。
現状のままでは、周囲にはむし歯(虫歯)で苦しむ親子が少ない中で、乳幼児期にむし歯(虫歯)になってしまったお子さんの保護者の方は、情報も少なく、的確な治療を受けられないまま心理的にも追いつめられてしまいます。
こうした方々が行き場を失わないように、小児歯科の診療技術を次世代に伝えていく努力をしなければいけないなと思う今日この頃です。