2009年04月25日
上唇小帯
上唇小帯(じょうしんしょうたい)とは、上の前歯の上の方、中央部にある「すじ」のことです。
大人にも子どもにもあるのですが、乳幼児期、特に2歳以前にはこの上唇小帯が太くて目立ち、上の前歯の真ん中に割って入るように発達している場合が多いのです。この状態を上唇小帯の低位付着などと呼びます。
http://angel-dc.com/12-2-02.html もご覧ください。
上唇小帯は成長と共に徐々に細くなり、付着位置も変化していきます。
最近では経年的な変化を追った研究報告もなされています。
稀には、小学生頃になってもあまり変わらないケースもあって、その場合は上の前歯の中央部の歯の間に隙間が残ってしまったりするために簡単な切除手術の適応となります。
多くの場合は、切除するとしても小学校入学以降の年齢になってからです。
下の写真は2歳児ですが、これで全く正常です。もちろんこの年齢で上唇小帯が発達していないお子さんもいます。
しかし、成人の上唇小帯を見慣れていると、写真のように太い乳幼児期の上唇小帯が異常に思えるために、その年齢では正常であるにもかかわらず「切除が必要」と判断してしまう歯科医師が一部にいます。
1歳6ヶ月児健診などで歯科医師が指摘してしまい、保護者を悩ませるというケースが後を絶ちません。
大学歯学部の小児歯科の教育の中でもあまり強調されていないために、少なからぬ歯科医師が乳幼児期の上唇小帯は太くても異常ではない、という事実を知らないことも一因と思われます。
乳幼児健診関連の出版物も増え、私も以前に神奈川県歯科医師会員向けの月報にも書かせていただいたりしましたし、徐々に状況は是正されてはいるはずなのですが・・・。
先日も、1歳4ヶ月のお子さんをお連れになった方が少し遠方の地域から相談にみえました。
お子さんが上の前歯付近を気にする様子があったので近くの歯科医院を受診したところ、歯科医師に「上唇小帯が太いので切ったほうが良い。まだ小さいので処置に慣れさせる目的で切除する前に何度か通院してください。」と言われたとのこと。
私がそのお子さんのお口の中を拝見したところ、たしかに上唇小帯は太いタイプですが問題はありませんでした。そして、上前歯付近の歯肉が赤く腫れていました。最近発熱があったとのこと。ヘルペス性歯肉口内炎と診断しました。これについては↓をご参照ください。
https://angel-dc.com/12-2-03.html
病状がピークを過ぎて治癒してきている様子でしたので、投薬はせず、患部の洗浄のみおこなって帰宅していただきました。
さて、あまり同業者をとやかく言いたくはないのですが、この親子が最初に受診した歯科医師は3つの誤解をしています。
1)1歳のお子さんが口の中を気にする様子があるというのはよほどのことですが、ヘルペス性歯肉口内炎による痛みや違和感を訴えていたわけです。これは上唇小帯の形態とは無関係であるのに、そうは考えなかったこと。
2)上唇小帯が太いことはこの年齢では正常であるのに、切除が必要と考えたこと。
3)1歳4ヶ月児が何回か通院して歯科医師になついたとしても、歯科処置の際に動かずにおとなしくしていることは不可能である、ということが判断できなかったこと。
1歳児が何度か通院したとしても、全く医療収入にはつながりませんから、おそらくは全て善意のもとで発言されたことなのだとは思います。
永久歯が生える前のお子さんについては、ほとんどの場合上唇小帯の切除は必要がなく、経過をみるだけで良いということを子育て中のみなさんにも知っておいていただければ幸いです。