2009年03月14日
見えにくいむし歯(虫歯)と咬翼法X線
「幼稚園・保育園や学校の歯科健診ではむし歯(虫歯)なしと言われたのに、歯科医院ではむし歯(虫歯)と言われた。」
よくある話です。
では、なぜこのような矛盾が起こるのでしょうか。
それをご理解いただくために、今回は集団健診と個別健診の違いについて書きたいと思います。
集団健診はあくまでも精査を必要とする人を見つけ出すという目的でおこなわれるものです。これを「スクリーニング」と言います。
3歳児健診、幼稚園・保育園の歯科健診、学校健診などは全てこのスクリーニングに該当します。集団健診は正確な診断を得る場ではなく、医療機関に行って精密な検査や正確な診断をしてもらった方が良いと思われる人をふるい分けるシステムです。
たとえば、聴診器ひとつで胃潰瘍が発見できないということは、どなたにも理解しやすいと思います。その一方、熟練した医師が受診者の胸に聴診器を当てるだけで、心音や呼吸音の異常を聴き分け、病気の存在を示唆することが可能である、ということもわかりやすいと思います。内科などの場合には、「集団の健康診断で全てがわかるわけではないが、病気の手がかりが見つかったら病院に行って診てもらうべき。」ということは多くの方が認識しています。
しかし、歯科の場合はどうでしょう?暗くて狭い口の中のこととはいえ、むし歯(虫歯)等の病気は集団健診で歯科医師が見れば判定できると思っていませんか?
特に3歳児健診などは、保護者の目の前でお子さんの口の中を歯科医師が診査するわけですから、「むし歯(虫歯)はない」と言われれば100%ないと思ってしまうのは無理もないかもしれません。
ここに落とし穴があります。歯と歯の間、中でも奥歯の間は、目で見る診査(視診)ではどんなによく見ても見えない部分があります。
歯の間の見えにくいむし歯(虫歯)を見つけるためには、X線の助けが必要です。特に咬翼法(バイトウイング法)というテクニックで真横から撮影すると、目での診査では見つけられなかった奥歯の間のむし歯(虫歯)が写りこんできます。ですから、私自身が自分の担当する保育園や小学校で「むし歯(虫歯)が2本」と判定したお子さんが来院し、X線診査をすると、「むし歯(虫歯)が8本」という診断になるようなことが、しばしば起こります。
また、多くの場合、集団健診での診査環境は、ライトも暗くて見えにくく、歯を乾燥させるエアーシリンジもないので診療所の環境とは大きく違います。歯科医院では、エアーや器具を併用してシビアな目でしっかり診査しますから、保護者の方が「むし歯(虫歯)はないはず」と思っていてもむし歯(虫歯)が見つかることがあります。X線診査を別にしても、歯科医院での個別健診では、集団健診やご家庭での観察ではわからないことがいろいろとわかるのです。
それでは、集団健診は意味がないのでしょうか?そんなことはありません。上記した聴診器の例でもおわかりのように、集団健診でわかることも、またたくさんあるのです。
しかし、もしも歯科で正確な診査を受けたいとお思いになるなら、集団健診に頼らずに、学校や幼稚園・保育園の歯科健診の結果とは関係なく定期的な診査を歯科医院で受けていくことが必要になります。
下のX線写真は、幼稚園の健診では「むし歯(虫歯)なし」と判定されたお子さんですが、X線診査(咬翼法)で奥歯の間に歯髄に達するC3と分類される深いむし歯(虫歯)を含め、10本ものむし歯(虫歯)が見つかってしまいました。矢印部分にむし歯(虫歯)があります。こんなに深いむし歯(虫歯)であっても、集団健診をくぐり抜けてしまうこともあるのです。
また、咬翼法X線は、新たなむし歯(虫歯)の検出だけでなく、以前に受けた治療に問題が起きていないか、治療が成功しているかどうかを判定する材料になります。
下のX線写真は、定期診査にいらした中学生のものです。歯の間のむし歯(虫歯)が疑われたのですが、幸い治療を要する箇所はありませんでした。白っぽく写っているのが、以前に治療した際に充填した歯科材料ですが、天然の歯質と人工材料が段差もなく移行的になっているのが確認できます。このX線で見る限りでは、以前の治療もきれいに仕上がっていて、問題がないことがわかります。
当院に定期的に来てくださるお子さんの中には、むし歯(虫歯)のリスクが高くて毎回のように小さなむし歯(虫歯)が見つかってしまうケースもあります。以前にしっかり治療してあれば、定期診査で見つかるむし歯(虫歯)の多くは簡単な治療で済むのですが、「またむし歯(虫歯)と言われたけれど本当かしら?」と思われる保護者もいらっしゃるかもしれません。でも本当であることは、今までの説明でおわかりいただけたかと思います。
その一方、1~2歳でたくさんのむし歯(虫歯)治療をしたお子さんの保護者の方の中には、すばらしく努力をされ、その後は1本も再治療していないというケースも少なくありません。
保護者の方々にとっての、そして私たち小児歯科の歯科医師や医療スタッフにとっての最終的な目標は、乳歯にむし歯(虫歯)があったお子さんでも永久歯は予防に成功し、歯のことで悩まない人生を送れるようにしてあげることです。
そのためには、集団健診と個別健診の違いを理解しつつ、両者を上手に活用していくのが良い方法だと言えるでしょう。