2018年04月27日
集団歯科健診と小児歯科での個別診査の違い
「保育園や学校の歯科健診ではむし歯なしと言われたのに、歯科医院ではむし歯があると言われた。」
よくある話です。では、なぜこのような矛盾が起こるのでしょうか。
集団健診はあくまでも精査を必要とする人を見つけ出すという目的でおこなわれるものです。これを「スクリーニング」と言います。
1歳6か月児健診、3歳児健診、保育園・幼稚園の健診、学校健診などは歯科に限らず全てこのスクリーニングに該当します。
集団健診は正確な診断を得る場ではなく、医療機関に行って精密な検査や正確な診断をしてもらった方が良いと思われる人をふるい分けるシステムです。
たとえば、聴診器ひとつで胃潰瘍が発見できないということは、どなたにもご理解いただきやすいと思います。
その一方、熟練した医師が受診者の胸に聴診器を当てるだけで、心音や呼吸音の異常を聞き分け、病気の存在を示唆することが可能である、ということもわかりやすいと思います。
内科などの場合には、「集団の健康診断で全てがわかるわけではないが、病気の手がかりが見つかったら病院に行って診てもらうべきである。」ということは多くの方々が認識されています。
しかし、歯科の場合はどうでしょう?
暗くて狭い口の中のこととはいえ、むし歯等の病気は集団健診で歯科医師が見れば全て判定できると思っていませんか?
特に3歳児健診などは、保護者の目の前でお子さんの口の中を歯科医師が診査するわけですから、「むし歯はない」と言われれば100%ないと思ってしまうのは無理もないかもしれません。
ここに落とし穴があります。歯と歯の間、中でも奥歯の間は、目で見る診査(視診)ではどんなによく見ても見えない部分があります。
歯の間の見えにくいむし歯を見つけるためには、X線の助けが必要です。
特に咬翼法(バイトウイング法)というテクニックで真横から撮影すると、目での診査では見つけられなかった奥歯の間のむし歯が写りこんできます。
上のX線写真は、ある幼稚園の健診で「むし歯なし」と判定された後に私の歯科医院にいらしたお子さんのものですが、X線診査(咬翼法)を併用することによって奥歯の間(矢印部分)の歯髄に達する重度のむし歯を含め、全部で10本ものむし歯が見つかってしまいました。
こんなに深いむし歯や多数のむし歯であっても、集団健診をくぐり抜けてしまうこともあるのです。
集団健診での診査環境は、ライトも専用のものではないし、歯を乾燥させるエアーシリンジもないので歯科医院の環境とは大きく違います。
歯科医院では、エアーや器具を使用して診査しますから、保護者の方が「むし歯はないはず」と思っていてもむし歯が見つかることがあります。
X線診査を別にしても、歯科医院での個別健診では、集団健診やご家庭での観察ではわからないこともわかるのです。
特に当院のような小児歯科専門の歯科医院の多くが、毎回の定期診査の際に口の中の正確な記録と咬翼法X線を併用した精度の高い診査方法を採用しています。
(動いてしまうお子さんを短時間でざっと診るような精度の低い診査では、仮に歯科医院でおこなったとしても集団健診レベルとなってしまうかもしれません。)
ところで、集団健診は意味がないのでしょうか?そんなことはありません。前述した聴診器の例のように、集団健診で検出できることも、またたくさんあるのです。
限られた時間と診査環境の中ではありますが、集団健診には異常や病気の徴候を見いだして医療につなげる役割があります。
とはいえ、歯科に関しての正確な診査と結果に応じた予防処置や早期での治療を希望されるなら、学校や保育園・幼稚園の集団歯科健診の結果とは関係なく定期的な個別の診査を歯科医院で受けていくことが必要です。