2014年11月20日
小児歯科 シーラント、フッ素より先に的確な診断
小児歯科においてフッ素(フッ化物)やシーラントは予防処置として重要な位置づけであるのは申し上げるまでもありません。
しかし、それらは虫歯(むし歯)になっていない歯、あるいは初期虫歯(むし歯)に対して有効なのであって、既に虫歯(むし歯)が進行していれば残念ながら削っての治療となります。
しばらく他の歯科医院に行っていて、当院に戻ってきてくださった4歳の患者さん。
歯が痛いとのことで来院されました。
奥歯にボテッとしたシーラントがしてありました。(黒い矢印)
比較的最近に受けた処置とのことでした。
シーラントについてはこのブログの前回の記事をご参照ください。
ラバーダム(治療する歯を隔離して唾液中の細菌の侵入を防ぐ膜状の器材)をしないでシーラントをしたのは明らかで、このようなアバウトな処置がシーラントという処置法の信頼性を揺るがせる(奥歯の溝に過不足なく流し込まないために段差ができ、かえって虫歯(むし歯)を誘発する)原因かもしれません。
正しい方法でおこなえば確実に奥歯の溝を虫歯(むし歯)から守ることができるのですが、シーラントのデメリットを論じる方々は、このような望ましくない結果を恐れたり経験されたりしているのでしょう。
しかし、このお子さんに関してそれよりもっと問題なのは、シーラントをした歯と隣の歯には、歯の間や歯ぐきの近くに虫歯(むし歯)があるのに、それを無視してシーラントがしてあることでした。
上の写真の赤い矢印が虫歯(むし歯)の部分です。
X線で見ると、歯の間に初発した虫歯(むし歯)は既に歯髄近くまで達しています。
赤い矢印の上方の黒っぽい部分が虫歯(むし歯)で、矢印の右側の歯の外形と似た形の黒い部分が歯髄です。
乳歯の虫歯(むし歯)は相当深くまで進まないと痛みが出ないのが特徴で、このように進行してから初めて痛みを訴えることが多いのです。
局所麻酔、ラバーダムをして削ってみるとやはり深く広がった虫歯(むし歯)があらわれました。
下は治療終了近くの写真です。
ギリギリの線でなんとか歯髄への処置は回避でき、CR(コンポジットレジン)充填で済みました。
他院の批判は慎むべきでしょうが、今回は書いてしまいます。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
You Tubeで「小児歯科」と検索すると、私がAngel Dental Clinicとしてアップロードした「小児歯科 低年齢児の虫歯治療の実際」「乳幼児の重度虫歯 治療の実際」という動画の他に、「小児歯科の増患・集患」というような歯科医院向け経営コンサルタントさんの動画が出てきます。
それによれば、小児歯科診療は成人の患者さんを呼び込むためのマーケティングのツールということのようです。
特に最近開業された歯科医院の経営戦略の上で、お子さんはそのご家族に自院に来てもらうためのきっかけ作りに使われているような印象です。
実際には虫歯(むし歯)があっても治療らしい治療もしないで、上記のような緻密とは言えないやり方のシーラントや簡便な方法でフッ素(フッ化物)塗布をする程度。
痛くもなく泣くこともなく、ご褒美のおもちゃやシールをもらって帰るとなれば、お子さんたちにとっては楽しくテーマパークに行ったか、せいぜい歯医者の体験教室に行ったような感じでしょう。
詳しい診査や記録の保存、X線撮影もしないなら、歯と歯の間の虫歯(むし歯)も発見できません。
幼稚園や保育園で知り合った保護者の方々の口コミやLINEその他ネットのSNS等で「子どもにやさしく、夜も遅くまでやっていて駐車場も完備」な歯科医院が人気になっていくのは必然です。
でも、逆に言えば駐車場もない当院に、遠方や海外からなぜ多くの患者さんが来てくださるのでしょうか。
上記のお子さんの場合、定期的に通院していた歯科医院のプレイスぺースで楽しく遊んだりしている1~2年の間に、奥歯の間の見えにくい部分で虫歯(むし歯)が進んでしまったようです。
こうした見えにくい虫歯(むし歯)は、幼稚園・保育園での集団健診でも見つかりにくいため、かなり進行してしまってから来られるケースも多いのですが、私の立場からすると結局は「もう少し早くお会いできれば」と感じることが少なくありません。
歯科医院経営が苦しい時代ですので、ひとりでも多くの患者さんを獲得するための手法があるのは理解できますが、確実な診断と的確な処置・治療こそが医療であると思います。