2009年02月21日
サホライドについて ~むし歯(虫歯)進行抑制剤のこと~
今からおよそ40年前の昭和40年代(1970年前後)には、ほとんどの子どもにむし歯(虫歯)がありました。私もその中の一人でした。
「むし歯(虫歯)の洪水」と言われ、社会問題ともなっていたそうです。
その頃に登場した画期的な薬剤に商品名を「サホライド」というものがあります。フッ化ジアミン銀という薬で、歯科医師が主に乳歯のむし歯(虫歯)に塗布することにより、むし歯(虫歯)の進行を遅らせる効果が期待できるものです。
この薬には、むし歯(虫歯)部分に塗ることにより、歯が真っ黒になってしまうという問題点があります。
江戸時代以前の「お歯黒」のような外観になってしまいます。
また、見た目の問題以外にも、深いむし歯(虫歯)に塗ると歯髄(歯の内部)が影響を受けてしまうこともあります。
とはいえ、進行が早い乳歯のむし歯(虫歯)の悪化を食い止める効果はかなりあり、かつてむし歯(虫歯)の子どもたちが大挙して歯科医院を受診していた頃にはよく使われていたようです。日本の小児歯科医療に大きく貢献してきた薬剤であると言えるでしょう。
今でも、治療がしにくい低年齢児のむし歯(虫歯)に、暫定的な方法として使われていて、当院でも1歳前半のお子さんなどに一時的に塗布し、成長を待って治療開始するまでの間の「つなぎ」としてよく使用します。もちろん、数ヶ月から1年後には、確実な治療を開始することにより、人工物ながら白くきれいな外観と機能とを回復することを前提としています。
以前は、乳歯のむし歯(虫歯)治療に積極的でない歯科医師が上記の外観上の問題点の説明もせずに安易にサホライドを使用した例にときおり遭遇しました。お子さんの歯が真っ黒になってしまったことに驚き、心を痛めた保護者が治療を希望して来院されることもあったものです。
しかし、最近ではもっと心配な事例が目につくようになり、気になっています。開業して日が浅い歯科医師などの中に、「歯が黒くなる」というマイナス要因を恐れるあまりに、サホライドすら使わずに予防用のフッ化物の塗布や家庭用歯みがき剤の使用で急場をしのごうとするケースが増えてきたのです。
おそらくは、今の若い保護者の方々のデリケートな心情に配慮してのことだとは思います。しかし、初期のむし歯(虫歯)には着色しない高濃度のフッ化物なども有効ですが、進行したむし歯(虫歯)に対する処置の第一選択は歯冠修復などの治療であり、諸事情でそれが無理ならせめてサホライドを塗ってしっかりと頻繁に経過観察をしていかないと、急激に進んでいく乳歯のむし歯(虫歯)の勢いを止めることはできません。
歯科医師会の会員の診療所であれば、重度のケースは当院のような小児歯科専門医に紹介いただくなど会員同士の連携がなされるのですが、会員でない診療所も増えてきているので心配です。
乳歯がむし歯(虫歯)になってしまったお子さんでも、将来の発育や永久歯などに影響が及ばないように、保護者の方々の理解を得ながら最善の道を考えることも私たち歯科医師の責務だと思うのです。
サホライドを塗布していたと思われる症例
上の症例の治療後