集団歯科健診と小児歯科での個別診査の違い

「保育園や学校の歯科健診ではむし歯なしと言われたのに、歯科医院ではむし歯があると言われた。」

よくある話です。では、なぜこのような矛盾が起こるのでしょうか。

集団健診はあくまでも精査を必要とする人を見つけ出すという目的でおこなわれるものです。これを「スクリーニング」と言います。
1歳6か月児健診、3歳児健診、保育園・幼稚園の健診、学校健診などは歯科に限らず全てこのスクリーニングに該当します。
集団健診は正確な診断を得る場ではなく、医療機関に行って精密な検査や正確な診断をしてもらった方が良いと思われる人をふるい分けるシステムです。

たとえば、聴診器ひとつで胃潰瘍が発見できないということは、どなたにもご理解いただきやすいと思います。
その一方、熟練した医師が受診者の胸に聴診器を当てるだけで、心音や呼吸音の異常を聞き分け、病気の存在を示唆することが可能である、ということもわかりやすいと思います。
内科などの場合には、「集団の健康診断で全てがわかるわけではないが、病気の手がかりが見つかったら病院に行って診てもらうべきである。」ということは多くの方々が認識されています。

しかし、歯科の場合はどうでしょう?
暗くて狭い口の中のこととはいえ、むし歯等の病気は集団健診で歯科医師が見れば全て判定できると思っていませんか?
特に3歳児健診などは、保護者の目の前でお子さんの口の中を歯科医師が診査するわけですから、「むし歯はない」と言われれば100%ないと思ってしまうのは無理もないかもしれません。
ここに落とし穴があります。歯と歯の間、中でも奥歯の間は、目で見る診査(視診)ではどんなによく見ても見えない部分があります。
歯の間の見えにくいむし歯を見つけるためには、X線の助けが必要です。
特に咬翼法(バイトウイング法)というテクニックで真横から撮影すると、目での診査では見つけられなかった奥歯の間のむし歯が写りこんできます。

BW集団健診と個別

上のX線写真は、ある幼稚園の健診で「むし歯なし」と判定された後に私の歯科医院にいらしたお子さんのものですが、X線診査(咬翼法)を併用することによって奥歯の間(矢印部分)の歯髄に達する重度のむし歯を含め、全部で10本ものむし歯が見つかってしまいました。
こんなに深いむし歯や多数のむし歯であっても、集団健診をくぐり抜けてしまうこともあるのです。

集団健診での診査環境は、ライトも専用のものではないし、歯を乾燥させるエアーシリンジもないので歯科医院の環境とは大きく違います。
歯科医院では、エアーや器具を使用して診査しますから、保護者の方が「むし歯はないはず」と思っていてもむし歯が見つかることがあります。
X線診査を別にしても、歯科医院での個別健診では、集団健診やご家庭での観察ではわからないこともわかるのです。

特に当院のような小児歯科専門の歯科医院の多くが、毎回の定期診査の際に口の中の正確な記録と咬翼法X線を併用した精度の高い診査方法を採用しています。
(動いてしまうお子さんを短時間でざっと診るような精度の低い診査では、仮に歯科医院でおこなったとしても集団健診レベルとなってしまうかもしれません。)

ところで、集団健診は意味がないのでしょうか?そんなことはありません。前述した聴診器の例のように、集団健診で検出できることも、またたくさんあるのです。
限られた時間と診査環境の中ではありますが、集団健診には異常や病気の徴候を見いだして医療につなげる役割があります。

とはいえ、歯科に関しての正確な診査と結果に応じた予防処置や早期での治療を希望されるなら、学校や保育園・幼稚園の集団歯科健診の結果とは関係なく定期的な個別の診査を歯科医院で受けていくことが必要です。

外傷で歯が抜けてしまったら

小児歯科では歯の外傷(怪我)を診療することがよくあります。
歯の外傷には打撲や破折(歯が割れる、折れる)、嵌入(歯肉や骨の中にめり込んでしまう)等いろいろな種類がありますが、今回は歯が完全に脱落してしまったケース(完全脱臼)への対応法をご紹介します。

完全脱臼の場合、永久歯はもちろんですが、乳歯でも条件によっては元の位置に歯を戻して固定する方法(再植=さいしょく)を試みます。
抜けてしまった歯はできるだけ歯根(口の中にあったときに歯肉の下にあって見えない歯の根の部分)に触らないようにして、歯の保存液(学校や幼稚園、保育園では常備している場合があります)や冷たい牛乳(低脂肪乳や豆乳でなく普通の牛乳)に入れます。

牛乳と保存液

出血等への応急処置をし、歯よりも重大な問題(頭を打っているとか、意識が薄いなど)
がなければ歯科医院に連絡を取って受診しますが、受診までに時間がかかるときは保存液
や牛乳に入れた歯を冷蔵庫等で低温にしておきます。
歯根を包む歯根膜という組織が乾燥してしまうと、再植をしても良好な経過は望めません。

歯科医院では、必要に応じて歯肉等の縫合処置もおこないますが、抜けた歯は元の位置に戻してワイヤーと歯科用の接着剤で固定をおこないます。(私はこの処置の際にもラバーダムを使用します。)
また、抗生剤等の薬剤の投与も実施されます。
写真は乳歯の完全脱臼を再植したケースです。

A脱臼-2

A脱臼-4

固定期間については最短2週間などいろいろな考え方がありますが、当院では多くの場合
1か月から1か月半としています。
固定を除去した後に感染根管治療(歯の内部の治療)をおこない、その後にこの治療の
際に歯の裏側にあけた穴を修復し、経過観察に入る、というのがおおまかな手順と
なります。

A脱臼-6

乳歯については以前は再植をしないというのが一般的だった時代もあり、現在でも否定的
な考え方もありますが、日本外傷歯科学会、日本小児歯科学会、日本歯科医師会は条件に
よっては可能というガイドラインや指針を提示しています。

http://www.ja-dt.org/guidline.html

http://www.jspd.or.jp/contents/main/faq/faq05.html#faq_e0501

https://www.jda.or.jp/park/lose/gaisyou_02.html

低年齢のお子さんの保護者の方は、お子さんの歯が完全脱臼した際には精神的に動揺し、
混乱しているのが普通です。
残念ながら再植できなかった場合でも近い将来に小児用の入れ歯等で補う方法はあります。が、当面再植できれば、保護者の方が動揺や混乱から立ち直って事態を冷静に見ることができるようになるまでの時間を作ることもできます。
その意味からも、私は脱落した歯が乾燥していなくて状態が良ければできるだけ再植を試みるようにしています。

まとめです。
外傷で歯が脱落してしまった場合、まずは受傷部分の止血等の応急処置。次に歯よりも優先する重大な頭部や他の部分の外傷がないかを見きわめたら、乳歯でも永久歯でも歯根部分を触らないようにして牛乳や歯の保存液に歯を浸し、歯科医院へ連絡するというのが望ましい手順です。