2019年11月08日
ストローが歯にはまる事故を知ってください
先日、3歳児健診でストローと思われる異物が下の前歯にはまり込んでいるお子さんに遭遇しました。
数日後に当院に来院いただき、除去した時の動画です。
今回のケースは1歳6か月よりも前にストローがはまり込んだと思われ、歯科医院を受診したものの正しく診断されずに経過観察となったようです。
1歳6か月児健診の記録にも「下の前歯については歯科医院にて経過観察中」の記録があるので健診を担当した歯科医師も異常は認めたものの、歯にストローがはまっていることには気づかなかったと思われます。
さらにその後も別の歯科医院を受診し、そこでも除去には至らずに2年近くが経過してしまいました。
3歳児健診を担当した私は、すぐにそれとわかったのでその場で除去を試みましたが、歯の揺れが激しく断念しました。
数日後に当院を受診してくださったので、X線撮影をおこないました。
予想どおり歯を支える骨が長期間の異物のはまり込みの影響で溶けてしまい、成人の重度の歯周疾患と同じような状況となっていました。
ストローを慎重に除去し、歯の外傷(歯の怪我)で歯が抜けてしまった時と同様のワイヤー固定を実施しました。
今回除去したストローです。
長さは5mmほどもあり、大部分が歯肉の下に隠れていてわかりにくい状態となっていました。
ストローあるいはそれに類する異物が歯にはまったという、極めて単純なことなので早期に発見して除去すれば健康被害はほとんどありませんし、除去も多くの場合は容易です。
しかし、正しい判断や診断がなされずに長期間放置されると最悪の場合は乳歯の抜歯や骨の中で育っている永久歯への感染、異物の種類によっては化学物質の溶出の心配といった大きな問題に発展してしまいます。
このブログの過去記事「ストローが歯にはまる!?」にも書きました。
この件について保護者の承諾を得て(二度とおなじような事故が起きないようにぜひ啓発に使用してくださいとご快諾いただきました)ストロー除去の様子の動画をTwitterやYouTubeで公開しました。
特にTwitterでは多くの方に情報を伝達することができました。
過去に同様の事例を私自身10例近く経験し、地域歯科医師会でも母子保健セミナーの機会等に情報発信をしてきたので、それを聞いていた歯科医師が早期に気づいて除去できたケースが近隣歯科医院にも2例ありました。
小児歯科学会や小児口腔外科学会(この学会誌の最新号(VOL29 No1)にも2例の報告が掲載されていました)ではたいへんよく知られた事象です。
2005年には小児歯科専門医のグループが、大手飲料メーカーに交渉してこの事故の防止のために飲料に附属するストローにストライプ模様を入れてもらうことになったことを含め、類似の多ケースの事例を月刊誌「小児歯科臨床」に寄稿しています。
小さなお子さんは何でも口に入れがちで、ストロー、パイプ枕のパイプ、音の出るクラッカーの部品、アイロンビーズ等の円筒状の物の直径が上または下の前歯の直径とほぼ合致した場合にスッポリはまってしまいます。
抜けなくなるうちに大部分がちぎれて失われ、残りの部分が歯肉の方に移動してしまうと保護者や保育者には(透明の物の場合は特に)わかりにくくなります。
今回の問題点は、私が3歳児健診で発見するまでの2年近くの間に少なくとも3名の歯科医師が診察をしたのに、ストローのはまり込みであると判断されず、小児歯科専門医に紹介されることもなく看過されてしまったということです。
日本小児歯科学会員や日本小児口腔外科学会員なら誰でも知っていて、もはや珍しくもない事例なのですが、歯科医師全体からみれば小さなグループの中だけで情報を共有することでは足りないということがよくわかりました。
SNSには功罪あるとは思いますが、この際SNSをはじめとする多くの方々が目にする媒体を通じて学会員以外の歯科医師や医療関係者、広く一般の保護者、保育者の方々に知っていただくことが大切かと思います。
この拙文をお読みいただき、写真や動画をご覧いただいた方はぜひ他の方にもお伝えいただければと思います。
1枚の写真を目にしたことがあれば保護者や保育者にも簡単に判断できて、事態の深刻化を回避する助けになるはずです。
私が経験した同様事例の写真とそれらとは別のケースで除去したストローの写真を掲載しておきます。
皆さまのご協力をお願い申し上げます。
2020.1.4追記
おかげさまで上記の件はTwitterでも多くの方に見ていただき、症例とその後のSNSを通じた事故防止、早期認知への啓発活動について昨年の日本小児歯科学会でも発表しました。
また日本小児科学会の傷害速報(Injury Alert)に掲載いただくことも叶いました。
ご尽力いただいた方々に心から感謝申し上げます。