子どもの歯が痛い

虫歯(むし歯)は痛いものというイメージがありますが、意外かもしれませんが乳歯の場合は自覚症状が少なく、痛みを感じるのは相当進行した状態になってからです。
「お子さんが歯の痛みを訴える」と小児歯科を受診するケースの大半は虫歯の痛みではありません。
口の中の特定の部分が痛い場合に、最も多いのは口内炎です。
低年齢では表現力が乏しいこともあって保護者は歯の痛みと誤解しますが、痛みの出ている付近の歯肉に口内炎が見つかることがよくあります。

保護者の目から見て、虫歯(むし歯)で歯に大きな穴があいている場合には虫歯(むし歯)の痛みの可能性がありますが、一見してきれいな口の中のお子さんでは、歯の間に小さな虫歯(むし歯)が潜んでいたり歯の溝に黒い部分があって軽度の虫歯(むし歯)であったとしても、まだその段階では痛みは出ません。
虫歯(むし歯)が進行して歯の内部の歯髄という組織に達する深さになると「歯髄炎」という状態になります。
成人ではこの段階で水にしみたり痛みが出たりしますが、小児でははっきりした症状が出ないのが普通です。

さらに進行すると歯根の先まで細菌感染が及び、歯髄が活性を失って歯の中が膿んできます。
「急性または慢性の化膿性根尖性歯周炎」という状態です。
乳歯では多くの場合、この段階に至って初めて痛みが出てきます。

特定の歯1本に強い痛みがある、その歯で噛んだり触れるだけでも痛い、温かい飲み物を口に含むと痛い、身体が暖まると痛みが増す、その歯の近くの歯肉が腫れるなどの症状が出て、痛みの強弱に波はあるものの時には食事もできず夜も眠れなかったり、痛くて泣いてしまうほどになります。
歯は硬い組織でできているので、歯の内部に膿が溜まって圧力が高まると膿の出口がないので強い痛みが生じます。

注目すべきは一度も治療を受けていない虫歯(むし歯)よりも、一度治療したはずの歯がこの状況に陥ることの方が多いのです。
歯髄の近くまで進んだ虫歯(むし歯)を削って治療していく際に、既に歯髄に感染が及んでいたり、ギリギリの線で歯髄を残して充填処置をしたが結果として残念ながら感染して数か月後に痛みが出てくることは、良質な歯科医療がなされていてもときどきあります。
治療の際にラバーダムと「う蝕検知液」を使用すれば成功率は高まりますが100%ではありません。
できるだけ歯髄には手をつけずに充填処置で済むに越したことはない、という最近の歯科医療の潮流も背景にあります。

そして、現実には必ずしも良質とは言えない歯科医療の結果として1)虫歯(むし歯)部分が取りきれなかったり、2)充填物の封鎖性が不完全で隙間から細菌が侵入した結果、膿んでしまうことが多々あります。

写真は不完全なCR充填に伴う上記の1)や2)によって膿んでしまったと思われる歯です。

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こうした歯は触っただけでも痛みがある反面、歯髄だった部分は活性を失っていて知覚がないので削ることでの痛みはありません。

歯髄が健康であれば歯に穴をあけると出血してきますし、局所麻酔なしで歯髄の近くまで削ると激痛がありますが、膿んでしまった歯は写真のように内部が黒ずんでいたり、膿があふれ出てきたりして局所麻酔は不要です。

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このように歯に穴をあけて膿の出口を作り消毒薬を浸した綿を入れ、仮の蓋をせずに開けておく処置を「開放」と言います。
原因となった歯が歯科医師により特定されて開放処置が受けられれば膿が出て圧力が抜けるので痛みは軽減し、多くのケースではその日から安眠が得られます。
通常は抗生剤を服用していただき、ケースによっては歯肉の腫れを切開します。
その後は「感染根管治療」という治療法に移行します。

受診が遅れたり、受診しても原因の歯がなかなか特定できなかったりして開放処置が遅れると、頬や顔までが腫れてしまう「蜂窩織炎」という状況になってしまうことがあります。
炎症が長期にわたると顎の骨の中で育っている永久歯の芽(歯胚)に感染が及ぶことも当然考えられます。

先日も他の歯科医院で治療を嫌がったために顔の半分が腫れてしまい、総合病院の小児科に1週間入院後に当院に紹介されてきたお子さんの治療をしました。
歯科のない病院では歯科医師による開放処置が不可能なこともあり、抗生剤の点滴で炎症が治まるのに日数がかかることもあるようです。

人間の感じる痛みの中でも上位にランクされるという、強い苦痛を伴う根尖性歯周炎の痛みからお子さんを早く解放してあげるには、信頼できる歯科医師による一日でも早い開放処置と投薬が必要なのです。